事業承継で欠かせない遺言の活用法とは?作成のポイントと注意点まとめ

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事業承継で欠かせない遺言の活用法とは?作成のポイントと注意点まとめ

事業承継で欠かせない遺言の活用法とは?作成のポイントと注意点まとめ

2024/10/20

経営者が高齢で、将来的な事業承継に備えて検討すべきなのが遺言です。

遺言をうまく活用することで円滑な事業承継が行える一方、下手を打つと親族に禍根を残す事態を招きかねません。

本記事では事業承継で欠かせない遺言に着目し、活用のメリットや遺言をしなかった場合の影響などを解説します。

この記事を書いた人

松村昌典

株式会社エムアイエス 代表

山口県山口市(旧:阿知須町)生まれ 立命館大学経済学部卒業

大学卒業後、山口県中小企業団体中央会に入職。ものづくり補助金事務局を9年間担当。

2022年5月に独立し、株式会社Management Intelligence Service(現:株式会社エムアイエス)を立ち上げる。経営コンサルタントとして支援した企業はのべ1,000社以上。ITやマーケティングに関する知見の深さと、柔軟な発想力による補助金獲得支援に定評がある。自らのM&A経験を活かした企業へのM&A支援も得意とする。
「山口県から日本を元気にする経営コンサルタント」を合言葉に、山口県内の企業はもちろんのこと、県外企業へのコンサルティングも積極的におこなっている。

〈保有資格・認定〉

中小企業診断士
応用情報技術者

〈所属・会員情報〉

山口県中小企業診断士協会 正会員
山口県中小企業組合士会 正会員
山口県中小企業家同友会 正会員

目次

    事業承継で遺言を活用するメリット

    事業承継を行う際に遺言を活用するメリットは、大きく4つに分けられます。

    遺産分割協議を避けられる

    事前に遺言を活用して事業承継を行うことで、遺産分割協議を避けられます。

    遺言がない状態で遺産分割協議を行う場合、家族間で株式が分散するほか、経営権を巡るトラブルが発生するなど、時間がかかりかねません。その間も会社の経営に空白が生まれ、スムーズな事業承継からほど遠くなるでしょう。

    また、法定相続分よりも遺言書に書かれたものが優先されることから、遺言書を残して指定された形で事業承継の方向性を定められるため、株式の分散などを避けられます。

    自社株を後継者に集中できる

    自社株を後継者に集められるのも大きなメリットです。例えば、相続財産に自社株だけでなく不動産や現金などがあった場合、後継者には自社株を渡し、その他の家族には不動産や現金を与えることで平等に財産を分けることが可能です。

    自社株を後継者に集中できれば、経営権が速やかに譲渡され、スムーズな事業承継につながるでしょう。自社株を巡る関係者同士の争いにならなくて済むため、遺言はとても重要です。

    親族以外の人でも財産を遺贈できる

    遺言を活用することで、親族や配偶者以外の第三者に財産を遺贈できます。遺言書がなければ、法定相続人に優先順位に応じて分配されるのが通常です。

    事業承継は必ずしも親族同士で行う必要はなく、経営者が才能を認めた人物に託すこともできます。

    会社経営を優秀な人材に託したい場合は、遺言書で対応していくことがおすすめです。

    円滑な事業承継の強力なツールになる

    遺言書の存在は、先代経営者の意思をはっきり示すものなので、遺産相続や事業承継の際には強力なアイテムとなり得ます。

    遺言書がなければ、周囲の人たちは思い思いの意見を述べ、場合によっては先代経営者の考えを曲解して自分に有利な展開に持ち込もうとする可能性もあるでしょう。

    結果として、先代経営者が全く想定していない形で事業承継が行われてしまうリスクが発生します。遺言書があれば、先代経営者が恐れていた事態を回避できるでしょう。

    遺言をせずに死亡したら事業承継にどう影響する?

    仮に遺言書を作らずに経営者が死亡した場合は、遺産分割協議が発生します。遺産分割協議は法定相続人全員の合意が必要なため、お互いが権利を主張し、一歩も譲らなければ、いつまで経っても終わりません。

    しかし、法定相続人に与えられた権利を最優先して、機械的に分割すれば、自社株も同様に分けられてしまいます。円滑な事業承継に欠かせない自社株・資産がバラバラになり、資産を集めることが難しくなるでしょう。

    事業承継をうまく行うことができず、場合によっては事業継続が厳しくなります。

    先代の経営者が自分が亡くなってからの青写真を描いていた場合には、遺言を残した方が賢明です。

    事業承継に活用できる遺言の種類

    事業承継において活用できる遺言には、大きく分けて2つの種類があります。

    ここでは2種類の遺言についてまとめました。

    自筆証書遺言

    自筆証書遺言は、遺言者自らが作成できるものです。大きな特徴は、「遺言の本文」「作成日時」「遺言者の氏名」「押印」があれば、遺言として認められる点です。

    自筆証書遺言は思い立ったその日に作成できるほか、作成に費用がかからず、法務局にも安価で保管してもらえます。

    一方で、遺言書を悪用したい相続人が遺言者が作成したものを偽造し、自分に有利な内容に書き換える可能性もあるでしょう。

    また、せっかく遺言書を作ったのに発見されなかったという事例もあります。

    被相続人が亡くなった場合、法定相続人は家庭裁判所において検認手続きを行うなど、面倒な部分があるのも事実です。

    とはいえ、ここ数年で自筆証書遺言が活用しやすい環境が整えられており、自筆証書遺言でも十分効力を発揮し、効果的に活用できる時代になってきました。

    公正証書遺言

    公正証書遺言は証人に立ち会ってもらう形で公証役場において公証人が作成していく遺言書です。

    こちらも手間はかかるものの、偽造などの可能性は低く、有効な遺言を残しやすくなります。公証人が作るため、形式の間違いで無効になることもなく、検認なども必要ありません。

    一方で、専門家が入ることでより効果的な遺言になるため、費用がかかります。ただ、自筆証書遺言にあるデメリットはほとんどカバーできるので、確実性を求めるのであれば公正証書遺言がおすすめです。

    公正証書遺言作成の流れ

    公正証書遺言を作るのに何が必要で、どんなことをしなければならないのか、事前に知っておくと準備もしやすいでしょう。

    ここでは、公正証書遺言作成の流れを段階ごとに解説します。

    1. 必要書類の準備
    2. 遺言内容の検討
    3. 証人・遺言執行者の選定
    4. 公証人役場で遺言作成

    必要書類の準備

    公正証書遺言の作成には、必要書類があるため、その準備を行います。

    準備すべき必要書類は以下のとおりです。

    • 遺言者本人の印鑑登録証明書もしくは公的期間が発行した顔写真付き身分証明書
    • 遺言者と法定相続人の続柄などが記された戸籍謄本など
    • 法定相続人以外への遺贈の際には、その人物の住民票など

    不動産を相続させる場合には登記簿謄本や固定資産評価証明書などが、預貯金の場合には預貯金通帳などが別途必要になります。

    遺言内容の検討

    公証役場において、公証人などと遺言内容の検討を行っていきます。どのような記載を行うのかを事前に確認、検討を行うことで、スムーズな作成につながるからです。
    遺言の作成は「口授」と呼ばれる、遺言者が口頭で遺言の内容を伝える形で行われます。口授で伝える内容を決めておき、すり合わせを行うことで、作成日当日はスムーズに作成することが可能です。

    証人・遺言執行者の選定

    公正証書遺言では、証人と遺言執行者の存在が重要であり、事前に選定を行います。

    証人は2人必要ですが、誰でもなれるわけではありません。以下の人物は証人から除外されます。

    • 作成時未成年の人物
    • 法定相続人に該当する人物
    • 受遺者
    • 法定相続人や受遺者に該当する人物の配偶者など

    遺言によって財産を受け取る可能性がある人物や法律的に責任能力が認められない人物などは証人になれません。

    一方で証人は公証役場などが用意するケースもあります。

    遺言執行者は、遺言に書かれた内容を実現させていく人物です。遺言執行者には未成年者や破産者でなければ誰でもなることができるため、法定相続人なども遺言執行者になれます。

    しかし、よりスムーズな相続・事業承継を考えると、法律事務所の弁護士などに依頼した方が問題は起こりにくく、トラブル防止につながるでしょう。

    公証人役場で遺言作成

    証人などが決まったら、遺言の作成を行います。口授が終わり、公証人が遺言を作成したら、間違いがないかを確認して完成です。

    万が一、遺言者からの口授が難しい場合、筆談などでも作成することができます。

    遺言による事業承継がおすすめの経営者

    事業承継をする際に、遺言を残した方がよいケースがあるのが実情です。

    ここでは、遺言での事業承継がおすすめな経営者を解説します。

    複数の相続人が会社に関わっている

    家族経営で切り盛りしている場合、法定相続人が複数いれば、その分、財産がバラバラになりやすくなります。

    存命中は経営者の威光もあり、表向きは相続人同士の関係がよくても、亡くなってから揉め事が生じることはよくあるでしょう。

    また、財産を取得してから豹変してしまう人も珍しくありません。スムーズな事業承継を行うには、遺言書に自社株の相続先などを記載して対策を立てるのがおすすめです。

    資産の大部分が会社の株式である

    株式が資産の大部分を占めている場合、遺留分などの制度により、株式がバラバラになるのは明白です。1人の後継者に株式を託すには遺言書の作成が確実でしょう。

    一方、署名がないなど、遺言書に不備の疑いがあると、法定相続人は一歩も譲らず、長期化の恐れが出るほか、相続税の負担などにも影響が出てきます。

    遺言の付言事項として、なぜ株式を特定の人物に託すのかなどを、丁寧に書くことが大切です。

    個人事業主として経営している

    個人事業主の場合も中小企業と同様に、事業に家族が絡んでいるケースが散見されます。

    また、事務所を始めとする事業用資産を個人名義で賃貸しているケースなど、相続人たちが初めて知らされることも出てくるでしょう。

    その際に揉め事が起きないよう、あらかじめ整理をしておくことでトラブルを未然に防ぎやすくなります。

    遺言作成の際に注意したいポイント

    最後に遺言作成の際に注意しておきたいポイントについて解説します。

    遺言書の作成後、亡くなってから取り扱いを巡り面倒なことにならないよう、想定される注意点を把握した上で作成しましょう。

    個人資産の整理を徹底する 

    相続・事業承継をスムーズに行うには、個人資産の整理の徹底が必要です。

    自社株を特定の1人に集める場合、他の財産を活用して分けていけば、平等に分割できます。個人資産を整理しておけば、その後の戦略が立てやすくなるでしょう。

    遺留分への配慮を怠らない

    遺言書の作成でどうしても避けられないのが遺留分です。遺留分は民法で定められた相続財産を指します。

    後継者に全株式を与えたくても、遺留分を侵害する形になれば、遺留分侵害額請求権を行使され、トラブルに発展する恐れがあるでしょう。

    遺留分への配慮のためには、弁護士など知識を持つ人物と相談しながら、作成を進めていくことがおすすめです。

    遺言に関しては日弁連が電話での相談を受け付けているほか、さまざまな弁護士がコラムでわかりやすく解説しています。これらもうまく活用していきましょう。

    効力がある遺言方式にする

    遺言書を作成する際に一番避けたいのは、遺言書として法的効力がない、無効の遺言書になってしまうことです。

    特に自筆証書遺言では不備が起こりやすく、せっかくの遺言が台無しになることも考えられます。確実に効力がある遺言にするためにも、公正証書遺言を活用していくのもおすすめです。

    事業承継計画を一緒に検討する

    遺言書と事業承継計画の作成は一緒に検討を進めます。事業承継計画は、中長期的な事業計画をまとめつつ、事業承継をいつ行うか、事業承継の課題とは何かなどを盛り込んだものです。

    おおよその方向性を定めてから事業承継計画に盛り込むため、どのようなやり方であればスムーズに事が運ぶのかを考えた上で計画を立てられ、実行に移せます。

    生前贈与によって一定額を贈与していけば、税負担も軽減されるため、より円滑な事業承継が行えるでしょう。

    遺言書の作成だけでなく、計画的な事業承継を行うことで、親族間のトラブルを避けられます。

    まとめ

    先代経営者の遺産を巡って親族間でトラブルになるほか、誰が経営権を握るかでも「お家騒動」になってしまうことがあります。

    円滑な事業承継のためには遺言書の作成が欠かせません。そのうえで、しっかりと効力を持たせるために、弁護士など専門家に相談をしながら、トラブルになりにくい形を目指していくことが大切です。

     

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