会社を廃業できないケースとは?債務や資産整理のポイントを解説

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会社を廃業できないケースとは?債務や資産整理のポイントを解説

会社を廃業できないケースとは?債務や資産整理のポイントを解説

2025/03/04

廃業とひとくちに言っても、個人事業と違い法人の解散・清算手続きは複雑で、借入金や契約内容によってはスムーズに進まないケースも多々あります。

さらに、長年一緒に働いてきた従業員や取引先に迷惑をかけたくない気持ちも、廃業をためらう大きな要因となります。

一方で、廃業を「できない」と思いこんで先延ばしにすると、より大きな負債やリスクを抱える可能性も否めません。

本記事では、「会社を廃業できない」状況に陥る主な理由や、法人廃業で気をつけたいポイント、手続きの流れから専門家の活用までをわかりやすく解説します。

この記事を書いた人

松村昌典

株式会社エムアイエス 代表

山口県山口市(旧:阿知須町)生まれ 立命館大学経済学部卒業

大学卒業後、山口県中小企業団体中央会に入職。ものづくり補助金事務局を9年間担当。

2022年5月に独立し、株式会社Management Intelligence Service(現:株式会社エムアイエス)を立ち上げる。経営コンサルタントとして支援した企業はのべ1,000社以上。ITやマーケティングに関する知見の深さと、柔軟な発想力による補助金獲得支援に定評がある。自らのM&A経験を活かした企業へのM&A支援も得意とする。
「山口県から日本を元気にする経営コンサルタント」を合言葉に、山口県内の企業はもちろんのこと、県外企業へのコンサルティングも積極的におこなっている。

〈保有資格・認定〉

中小企業診断士
応用情報技術者

〈所属・会員情報〉

山口県中小企業診断士協会 正会員
山口県中小企業組合士会 正会員
山口県中小企業家同友会 正会員

目次

    会社を廃業できない理由とは?

    会社を廃業するには、単に「営業をやめる」だけではなく、法人の解散や清算をすべて終える必要があります。

    このとき、借入金や債務といった金銭的な問題が残っていると、スムーズに清算手続きに移行することが難しくなります。

    返済義務が残っている限り、法的に「清算完了」とはみなされず、最悪の場合は破産手続きを検討しなければならないケースもあるでしょう。

    借入金や債務があると清算手続きができない

    会社を設立して事業を行う際に、銀行などから融資を受けているケースは少なくありません。 

    しかし、 借入金や債務が残った状態では、会社の財産を自由に処分することができず、廃業手続き(清算手続き)に入ることができません。

    会社を廃業するには、すべての債権者への支払いを完了させる必要があります。 もし、 会社の資産よりも負債の方が多い債務超過の状態でも、債権者への支払いの責任から逃れることはできません。

    このような状況では、下記のような方法を検討する必要があります。

    • 事業を継続して、将来的に返済していく
    • 資産を売却して、債務の返済に充てる
    • 債権者と交渉し、債務の減免や分割払いなどを検討する

    弁護士や税理士などの専門家に相談しながら、状況に応じた適切な方法を探っていくことが大切です。

    借入金や債務が残った状態では破産手続きを行う

    もし、会社の資産状況が悪化し、 借入金や債務の返済の見込みが全く立たない 場合は、破産手続きを検討する必要があります。

    破産手続きとは、裁判所の関与のもと、 会社の資産を換金し、債権者に配当する手続きのことです。 破産手続きを行うと、会社は解散することになります。

    破産手続きは、会社の経営者にとって非常に重い決断となりますが、 債務整理の方法としては有効な手段とも言えます。 

    多額の借入金や債務が残ったまま廃業を先延ばしにすると、状況がより悪化する可能性が高まるため、弁護士や税理士などの専門家に早めに相談し、最適な方法を検討することが大切です。

    法人を廃業した場合の課題

    会社を廃業すれば、税務や労務などの手続きを完了させるだけで済むわけではありません。

    長年にわたり積み上げてきた人材や取引先との関係性、独自の技術やノウハウも消滅してしまう可能性が高く、社会的な影響は小さくないでしょう。

    従業員や取引先に迷惑をかける

    法人が廃業すると、雇用されている従業員は職を失うことになります。

    長年会社に貢献してきた人材への対応を誤ると、経営者と従業員のトラブルに発展することもあるため、解雇予告通知の時期や退職金の支払い、社会保険などの手続きを慎重に進める必要があります。

    また、取引先に対しても未払金や注文のキャンセルなどが発生し、相手企業の経営に影響を及ぼす可能性があります。

    特に、企業間の取引は連鎖的な影響が広がりやすいため、取引先との関係性が悪化しないよう、早めの情報共有や代替手段の検討を行うことが大切です。

    培ってきた技術やノウハウが消滅する

    法人として長年にわたって蓄積してきた知識やノウハウは、廃業とともに外部への継承が行われない限り消えてしまいます。

    独自の製品開発技術や顧客との信頼関係など、長時間と多大な投資をかけて形成した価値が失われるのは、経営者だけでなく社員や地域社会にとっても大きな損失です。

    後継者不在などの理由でやむを得ず廃業する場合でも、事業承継コンサルやM&Aの専門家に相談すれば、技術やノウハウの引き継ぎ先を見つけられる可能性があります。

    会社を継続できないからといって、これまで培ってきた価値ある資産をすべて失う必要はありません。

    会社の廃業手続きの流れ

    会社の廃業手続きは、単純に「事業をやめる」と宣言するだけで完了するわけではありません。

    株主総会による解散の決議から、実際に財産や債務を整理するまでのプロセスを、主なポイントに沿って見ていきましょう。

    株主総会で解散を決定する

    まず、会社を解散するには株主総会を開催し、解散の意思決定を正式に行わなければなりません。

    株主総会では、解散後の清算人(清算手続きの責任者)を選任することも重要なポイントです。株主が複数いる場合は合意形成が欠かせず、解散の議案に必要な決議要件をクリアしなければ、次のステップに進めません。

    登記と関係者への通知

    株主総会で解散が決議されたあとは、会社の本店所在地を管轄する法務局で解散登記を行います。これにより、法律上「解散した会社」であることが公的に証明されます。

    法務局への解散登記の申請は、解散が決定してから2週間以内に行うことが会社法で定められており、期限を過ぎると罰則を受ける恐れもあるため、速やかに行いましょう。

    加えて、取引先や従業員などへの通知も欠かせません。特に取引先には未払金や契約の処理などが生じるため、早めに廃業のスケジュールを共有しておく必要があります。

    解散確定申告

    法人が解散したら、税務上も手続きを進めます。解散した日から通常2カ月以内に「解散確定申告」を行い、決算期ではないタイミングでも法人税などの申告が必要となる点に注意が必要です。

    解散確定申告を怠ると、延滞税や加算税などのペナルティが発生する恐れがあるため、忘れずに早めの対応を行いましょう。

    債権者保護手続き

    解散した会社は、全ての債権者に対して「清算手続きを進めるので、債権がある場合は申し出てください」と公告しなければなりません。

    これを債権者保護手続きと呼びます。公告期間を定めて告知することで、債権者が適切に請求できるように配慮し、後から「債務が未処理だった」といったトラブルを防ぎます。

    告知のため、会社の解散の際は官報公告に掲載することが定められています。官報販売所に連絡し、掲載を依頼しましょう。

    借金や財産を整理する

    債権者保護手続きを経たうえで、実際に会社の借金や未払金、不動産などを含む保有する財産等を最終的に整理します。

    金融機関への借入金が残っている場合は、返済計画や交渉を進めなければなりませんし、もし支払い能力を超える債務を抱えているなら、破産手続きに移行する可能性もあります。

    また、財産を換価して得た現金を債権者に配分し、最終的に清算結了の登記を行うことで、法人としての廃業手続きは完了します。

    廃業の告知のタイミング

    外部への廃業告知が遅れると、取引先の業務に支障が出たり、従業員の転職活動に影響が及んだりするケースも考えられます。

    廃業が決定した時点で、いつ・誰に・どのように伝えるのかを事前に整理し、スムーズに進めることが大切です。

    タイムラグが発生する取引は廃業が完了する前までに終えておく

    事業を継続している間に行ってきた仕入れや販売、リース契約などは、実際の支払い日やサービス終了日が後ろ倒しになりやすいものもあります。

    こうした取引を解消しないまま廃業手続きに突入すると、契約相手との間でトラブルが生じる可能性が高まります。

    リース契約であれば違約金が発生し、販売などでは返品や返金対応が必要になることもあります。

    取引先との関係を円満に終えるためにも、タイムラグがある取引はできるだけ廃業完了前までに清算しておくことが望ましいでしょう。

    従業員に「解雇予告通知」を出す

    従業員がいる会社を廃業する場合、経営者は労働基準法に基づいて「解雇予告通知」を行う義務があります。

    原則として解雇の30日前までに通知する必要があるため、廃業の時期がほぼ決まった段階で、従業員に対して早めに伝えることが重要です。

    通知が遅れると、従業員が転職先を探す時間を十分に確保できず、生活基盤を失うリスクが高まります。

    誠実に対応することで、従業員とのトラブルを回避し、最終的に円満な廃業へとつなげることが可能になります。

    会社を廃業できない状況を防ぐためにできること

    廃業手続きがスムーズに進まない要因の多くは、財務状況の悪化や後手に回った対応が原因です。

    以下のポイントを定期的に見直すことで、いざというときに「廃業したくてもできない」という事態を防ぎやすくなります。

    定期的に財務状況をチェックする

    会社の経営状態を把握するには、月次決算などを通して定期的に財務状況を確認する習慣が欠かせません。

    売上や利益だけでなく、借入金の返済計画やキャッシュフローの推移を細かくチェックすることで、経営悪化の兆候を早期に察知できます。

    資金繰りが苦しくなり始めた時点でリスケジュール(返済条件の再調整)を検討するなど、迅速な対策を講じられれば、大きな負債を抱える前に軌道修正できる可能性が高まります。

    事業計画の見直しを定期的に行う

    事業計画は一度立てたら終わりではなく、市場環境や顧客ニーズの変化に合わせて都度見直す必要があります。

    新規事業へのシフトや既存商品の改良などを定期的に検討し、経営の方向性を明確にすることで、収益悪化のリスクを抑えられます。

    計画の進捗を把握しながら経営資源を配分できれば、結果として財務状況も安定しやすくなり、廃業という選択肢を迫られる可能性を減らすことにつながります。

    経営者保証を見直す

    中小企業の借入れには、代表者の個人保証(経営者保証)が付いているケースが少なくありません。

    経営者保証があると、会社が廃業しても、経営者個人が負債を背負わなければならないリスクが高まります。

    金融機関との交渉や「経営者保証ガイドライン」の活用によって、保証条件の変更や免除が可能になる場合もあるため、定期的に保証内容を見直すことが重要です。

    早期の専門家相談を心がける

    財務や労務、法務に関する問題を抱えている場合は、弁護士や税理士、社労士などの専門家に早い段階から相談しましょう。

    経営状況の悪化が深刻化する前に第三者の視点でアドバイスを受けると、倒産や廃業以外にも事業承継やM&Aといった可能性を探れる場合があります。

    専門家との連携を円滑にするためには、日頃から財務資料や契約書類を整備しておくことも重要です。

    廃業が避けられない場合でも、適切なサポートを得れば、リスクを最小限に抑えながら会社を閉じることが可能になります。

    会社の廃業に関するよくある質問

    実際に廃業の決断を迫られたときに混乱しないよう、あらかじめ疑問を解消しておくことが大切です。

    ここでは、会社の廃業に関するよくある質問をまとめました。

    会社の廃業と破産の違いは?

    「廃業」は、株主総会の決議によって解散を決定し、すべての債務や資産を清算して法人を消滅させる手続きです。

    基本的には、返済能力がある範囲で債権者に支払いを行い、残った財産を株主に分配して会社を終わらせます。

    一方の「破産」は、返済のめどが立たないほど多額の債務を抱えてしまったときに、裁判所の手続きのもとで債務の整理をする方法です。

    破産管財人が会社の資産を換価して債権者に配当を行い、最終的に法人が消滅します。

    返済能力がない場合でも、破産によって公的に精算がなされるため、債務を整理する手段として利用されるのが特徴です。

    会社をたたむと残ったお金はどうなるの?

    通常の清算手続きで会社をたたむ場合は、債権者への支払いを終えてなお財産やお金が残ったとき、株主に分配されます。

    具体的な分配の方法は、会社の定款や出資比率によって異なるため、事前に確認しておくと安心です。もし社長自身が株主であれば、その持株比率に応じて分配を受けられます。

    ただし、代表者が連帯保証している借入金がある場合や、経営者本人が会社から役員借入金などを受けている場合は、別途清算が必要です。

    廃業によって残ったお金を受け取る前に、これらの個人と法人の間の負債関係を整理しなければならないケースもあるため、専門家に相談しながら慎重に進めることが大切です。

    まとめ

    会社を円満に廃業するためには、借入金や債務の整理をはじめとした法的手続きだけでなく、従業員や取引先への配慮も欠かせません。

    時間をかけて準備や調整を行うことで、リスクやトラブルを最小限に抑えることができます。

    また、廃業そのものを回避するために、定期的な財務状況のチェックや早期の専門家相談を行えば、会社の立て直しや事業承継といった選択肢も見えてくるでしょう。

    大切なのは、自社の現状と将来を冷静に見つめながら、早めに行動を起こすことです。専門家に相談しながら、最善の道を模索してみてください。

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