事業承継できずに黒字廃業?黒字企業でも廃業を選ぶ理由と回避方法

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事業承継できずに黒字廃業?黒字企業でも廃業を選ぶ理由と回避方法

事業承継できずに黒字廃業?黒字企業でも廃業を選ぶ理由と回避方法

2025/01/29

黒字経営にもかかわらず、後継者不足などの理由で企業が「黒字廃業」を選ばざるを得なくなるケースがあります。

せっかく利益が出ている企業であっても、事業承継に失敗すると経営者だけでなく、従業員や取引先にも大きな影響を及ぼすのです。

本記事では、なぜ黒字企業でも廃業を選ばざるを得ない状況になるのか、その背景や注意点を掘り下げるとともに、黒字廃業を防ぐための事業承継手法を具体的にご紹介します。

この記事を書いた人

松村昌典

株式会社エムアイエス 代表

山口県山口市(旧:阿知須町)生まれ 立命館大学経済学部卒業

大学卒業後、山口県中小企業団体中央会に入職。ものづくり補助金事務局を9年間担当。

2022年5月に独立し、株式会社Management Intelligence Service(現:株式会社エムアイエス)を立ち上げる。経営コンサルタントとして支援した企業はのべ1,000社以上。ITやマーケティングに関する知見の深さと、柔軟な発想力による補助金獲得支援に定評がある。自らのM&A経験を活かした企業へのM&A支援も得意とする。
「山口県から日本を元気にする経営コンサルタント」を合言葉に、山口県内の企業はもちろんのこと、県外企業へのコンサルティングも積極的におこなっている。

〈保有資格・認定〉

中小企業診断士
応用情報技術者

〈所属・会員情報〉

山口県中小企業診断士協会 正会員
山口県中小企業組合士会 正会員
山口県中小企業家同友会 正会員

目次

    黒字廃業となる理由

    「黒字廃業」とは、企業が十分な利益を上げているにもかかわらず、さまざまな事情により廃業に至ってしまうケースを指します。

    ここでは、黒字廃業が起こる代表的な理由について詳しく解説します。

    後継者の不在

    日本の中小企業経営者の高齢化が進む中、多くの企業で事業承継は取り組まなければならない問題となっており、今後ますます大きな課題となることが考えられます。

    とりわけ、親族の中に事業の引継ぎを行える人材がいない場合や、子どもが他の仕事につくため企業を継がないケースでは、経営者自身が事業承継の準備を怠りがちです。

    また、社員に承継を検討しても、買い取り資金の不足や責任の重さなどから断念することが少なくありません。

    事前に十分な資金調達や教育を行わないと、後継者候補がリスクを懸念して事業承継を辞退し、結果的に黒字廃業に至ってしまう可能性が高まります。

    資金繰りの悪化

    黒字であるにもかかわらず廃業に至る背景には、「利益」と「キャッシュフロー」の違いが大きく関係します。

    会計上の利益は計上されていても、実際には運転資金や借入金の返済に充てる現金が不足し、資金繰りが滞ることがあります。

    特に製造業や建設業などでは、原材料費や人件費がかさんでタイムラグが生じ、黒字経営といえども資金ショートのリスクが少なくありません。

    経営者の高齢化が進む中、金融機関も「後継者不在の企業」への追加融資には慎重になる傾向があります。その結果、必要な投資や事業拡大ができず、資金不足のまま企業の成長が頭打ちになってしまうケースも。

    収益はある程度確保できていても、先行きが不透明な状況では更なる設備投資や採用を控えざるを得ず、最終的には事業を継続できなくなる恐れがあります。

    黒字廃業の注意点

    黒字廃業の選択を迫られる企業は、「利益は出ているのに事業継続が難しい」というジレンマに直面します。

    しかし、単に会社を畳むだけでは済まず、従業員や取引先、さらには企業が長年培ってきた資産や技術にも甚大な影響を及ぼしかねません。

    ここでは、従業員や取引先、企業が蓄積してきた資産や技術に生じる影響を中心に解説します。

    従業員の解雇が必要となる

    黒字廃業を決定した時点で、事業を継続する意思がない以上、多くの従業員との雇用契約を解消しなければならなくなります。

    廃業に伴う解雇では、退職金や解雇予告手当などの費用が想定以上にかかるうえ、解雇理由や手続きに不備があれば、労働トラブルへと発展するリスクも高まります。

    こうした問題を避けるためには、廃業方針の決定後、できるだけ早い段階で従業員に説明し、転職支援や再就職先の情報提供などのサポートを行うことが重要です。

    さらに、退職金や解雇予告手当などに備えて計画的な資金を確保しておくことで、トラブルや負担を最小限に抑えられます。

    取引先にもダメージを与える

    黒字廃業によって取引先が受けるダメージは想像以上に大きく、自社製品を扱っている販売先にとっては、急な廃業が大きな売上源の喪失につながります。

    仕入先や協力会社にとっても、長年の取引がなくなることで経営計画の再構築を迫られる可能性があり、在庫ロスや機会損失が発生するケースもあります。

    こうした混乱をできる限り回避するためには、廃業を決定した段階で取引先にスケジュールや方針を共有し、必要であれば代替製品や代替仕入先の紹介など、取引先のリスク軽減に協力する姿勢が求められます。

    資産や技術の喪失

    黒字廃業の場合、企業が長年培ってきたノウハウや特許、ブランドといった無形資産が活用されないまま失われてしまう点も深刻です。

    製造業や職人技を要する業種では、独自の製造工程や技術的ノウハウが後継者不在のまま引き継がれず、貴重な産業文化が失われてしまうリスクが高まります。

    また、地域に根ざした企業が廃業すれば、地元における雇用機会や経済活動の活力が失われるなど、社会的影響も無視できません。

    こうした事態を避けるには、事業承継やM&A、技術供与といった形で外部へノウハウを移転し、自社資産や技術を次のステージに生かす道を模索することが大切です。

    行政や商工会議所、業界団体などと連携して承継先を探すことで、黒字廃業による損失を最小限に抑えられる可能性があります。

    なぜ後継者がいないのか

    黒字経営を続ける優良企業でも、後継者がいなければ事業の継続は難しく、廃業を選ばざるを得なくなる恐れがあります。

    中小企業庁によれば、「子どもに継ぐ意思がない」「適当な後継者がいない」など、後継者の不在を理由にする廃業は、2023年に廃業した企業の理由の約3割を占めています。

    経営者の高齢化が進む一方で、親族や従業員の中に事業を継ぐ人材がいない、もしくは承継を断念する状況が生まれています。

    ここでは、後継者不足に陥る背景について解説します。

    事業承継対策が遅かった

    後継者不在の原因として挙げられるものの一つは、経営者自身が事業承継の準備を先送りにしてしまうことです。

    日々の経営に追われ、承継に関する手続きや人材育成などの対策に着手するタイミングを逃してしまい、気が付けば経営者の年齢がかなり高くなっているというケースは少なくありません。

    特に親族内承継を想定していた場合、子どもや親族の意志確認を怠り、「当たり前に継いでくれるはず」と思い込んだまま時間が経過してしまうことが大きな問題です。

    こうした先送りを防ぐには、経営者が若いうちから後継者候補と話し合いを重ねるだけでなく、第三者承継も含めた複数のシナリオを検討する必要があります。

    後継者による株式の買い取りが困難

    後継者が見つかっても、その人が経営権を握るために必要な株式を取得できないという問題も少なくありません。

    会社の株式評価額が高い場合、後継者が多額の資金を用意する必要があり、事業承継を断念せざるを得ないケースもあります。

    さらに、金融機関からの融資や投資家からの出資を受けることが難しい業種や経営状況の場合、後継者候補の自己資金だけでは株式を買い取れないこともあります。

    こうした事態を回避するには、事前に株価の算定を行い、株式の評価額を下げるための組織再編や相続税の優遇措置を利用するなど、計画的かつ専門的な対策が必要となります。

    会社に借金がある

    経営者が借入金を重ねてきた場合、事業を継ぐ後継者候補は、その借金も引き継がなければなりません。赤字経営だけでなく、黒字経営であっても設備投資や運転資金のための負債が大きい企業では、後継者が「借金まで背負うのはリスクが高い」と判断することがあります。

    特に親族内承継や従業員承継では、後継者が家計や個人資産を巻き込んでまで会社を引き継ぐことに抵抗を感じ、承継に消極的になってしまいます。

    こうした状況を打開するには、借入金の整理やリスケジュール、M&Aによる負債の圧縮など、金融機関や税理士などの専門家の力を借りて経営状態を健全化する取り組みが欠かせません。

    黒字廃業を防ぐための事業承継手法

    利益を上げられているにもかかわらず、後継者不足や経営者の高齢化により廃業に追い込まれる黒字廃業を回避するには、適切な事業承継手法を選択し、早期に準備を進めることが重要です。

    ここでは、考えられる事業承継の方法について解説します。

    親族承継

    企業の後継者を自分の子どもや親族の中から選び、経営権を引き継ぐ形態が「親族承継」です。

    かつては日本の中小企業で一般的な承継方法でしたが、近年では子どもや親族が必ずしも事業を継ぎたいわけではなく、進学や就職で別の道に進むケースが増えています。

    それでも親族承継には、経営理念や企業文化がスムーズに引き継がれやすいという利点があります。

    とはいえ、親族承継を実現するには、経営者が後継者として育成したい親族に対して、経営のノウハウや企業の財務状態などをオープンに伝え、承継に必要な資金計画や人材育成を早い段階から進めなければなりません。

    また、相続税や贈与税の問題が発生する場合もあるため、株式の評価や税務対策を専門家とともに検討することが欠かせません。

    従業員承継

    企業に長年勤めてきた役員や従業員が後継者となり、経営権を引き継ぐ方法が「従業員承継」です。

    従業員はすでに会社の事業内容や組織風土を熟知しており、日頃から社内の人間関係や顧客との信頼関係を築いているため、スムーズに経営を受け継ぎやすい傾向があります。

    経営理念や企業文化をそのまま維持できるという点でも、親族承継に近いメリットがあります。

    一方、従業員承継では、後継者が会社の株式を買い取る資金を用意できないことが大きな壁となることが少なくありません。

    金融機関からの融資を利用するにしても、事業計画の信頼性や担保が求められます。

    さらに、借入金が残っている場合は、その返済義務が後継者にも及ぶため、慎重な検討が必要です。

    このように従業員承継を円滑に進めるには、専門家を交えた資金調達プランの策定や後継者の経営能力向上のための教育が欠かせません。

    M&A

    企業の全部または一部を第三者に売却し、経営権を引き継ぐ方法がM&Aです。

    親族や社内に適切な後継者がいない場合でも、外部から企業価値を評価してくれる買い手を見つけられれば、事業承継を実現できます。

    利益を生み出している黒字企業であれば、独自の技術や顧客基盤に魅力を感じる買い手とマッチングできる可能性が高く、経営者は株式譲渡による売却益を得ることもできます。

    ただし、M&Aには企業価値の査定や契約条件の交渉といった専門的なプロセスが必要であり、相応の時間と手間がかかります。

    会社の経営方針や人員配置、ブランドイメージが買い手企業の意向によって大きく変わるリスクも否定できません。

    従業員や取引先に混乱を与えないためにも、情報開示のタイミングや買い手企業とのシナジーを慎重に検討することが求められます。

    まとめ

    黒字であっても事業承継がうまくいかず、廃業に追い込まれてしまう企業が少なくない現状は、経営者や従業員はもちろん、日本の産業全体にも大きな損失をもたらします。

    後継者を早期に見つけることや、承継に必要な資金・株式の扱いを検討するなど、早めの準備や情報収集が重要です。

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