借金のある会社を継ぐ|リスクは?事業承継を成功させるポイント
2025/01/16
借金(負債)のある会社を事業承継する場合、後継者や新たな経営者はさまざまなリスクを抱えることになります。
とりわけ、中小企業では経営者個人と会社の財務状況が密接に絡み合うことも多いため、負債の扱いや連帯保証の引き継ぎ方などは慎重に検討しなければなりません。
本記事では、借金のある会社を継ぐリスクについて整理するとともに、事業承継を成功へ導くためのポイントを解説します。
この記事を書いた人
松村昌典
株式会社エムアイエス 代表
山口県山口市(旧:阿知須町)生まれ 立命館大学経済学部卒業
大学卒業後、山口県中小企業団体中央会に入職。ものづくり補助金事務局を9年間担当。
2022年5月に独立し、株式会社Management Intelligence Service(現:株式会社エムアイエス)を立ち上げる。経営コンサルタントとして支援した企業はのべ1,000社以上。ITやマーケティングに関する知見の深さと、柔軟な発想力による補助金獲得支援に定評がある。自らのM&A経験を活かした企業へのM&A支援も得意とする。
「山口県から日本を元気にする経営コンサルタント」を合言葉に、山口県内の企業はもちろんのこと、県外企業へのコンサルティングも積極的におこなっている。
〈保有資格・認定〉
中小企業診断士
応用情報技術者
〈所属・会員情報〉
山口県中小企業診断士協会 正会員
山口県中小企業組合士会 正会員
山口県中小企業家同友会 正会員
目次
借金のある会社を継ぐリスク
事業承継は会社の経営権を引き継ぐだけでなく、負債や各種保証といった経営者の責任も同時に引き継ぐケースが多いです。
ここを甘く見積もってしまうと、承継後に財務的な負担が経営を圧迫し、事業の継続が難しくなることもあります。
ここでは、個人事業主とは異なるリスクと、それらにどう対処すべきかを詳しく見ていきましょう。
会社の負債を引き継ぐ
借金のある会社を承継する場合、まず念頭に置きたいのが「会社の負債総額をどの程度引き継ぐことになるのか」という点です。
負債の詳細を把握せずに承継を進めてしまうと、後から多額の支払い責任が判明するリスクを負う可能性があります。
特に取引先との間に未払金などがある場合、キャッシュフローが悪化して倒産リスクが高まるでしょう。
事前に公認会計士や税理士などの専門家とともに財務状況の確認を行い、負債内容と返済スケジュールを正確に把握しておくことが重要です。
また、銀行などの金融機関との交渉で返済条件のリスケジュールを図るなど、財務リスクを軽減するための手を早めに打つことが承継後の安定経営につながります。
連帯保証も引き継ぐ
中小企業の融資では、代表者個人が銀行などの金融機関に連帯保証人として署名しているケースが多々あります。
事業承継において、後継者が経営権だけでなく連帯保証契約も引き継ぐことになれば、万が一返済が滞った際に、後継者の個人資産にも債務の請求が及ぶリスクが生じます。
加えて、先代経営者が連帯保証人を継続しているケースでは、事業承継後のトラブルが新旧経営者間の人間関係にまで波及する恐れもあります。
事前に金融機関と話し合い、必要に応じて連帯保証を外す、あるいは範囲を限定するなど、リスク低減策を検討することが不可欠です。
会社の業績が安定してくれば連帯保証の解除交渉を行いやすくなるため、承継後すぐの業績改善や信用力アップが大きな鍵となります。
個人資産への影響
借金のある会社を引き継ぐ場合には、経営不振時に経営者個人の資産が差し押さえ対象となる可能性も考慮しなければなりません。
特に自宅や預貯金など、個人のライフプランに直結する資産に影響が及ぶのは大きなリスクです。こうした事態を回避するためには、会社と個人の資産・債務関係を明確に区分し、法人と個人の区分けをはっきりさせることが重要です。
また、万一の際に備えて経営者保証ガイドラインに基づき、法人と経営者個人の財務を切り離す手続きや保険の活用を検討するのも一案です。
後継者が財産を守りつつ円滑に経営を行うには、承継前に法務・税務の専門家と連携し、資産保全の仕組みを整えておくことが必要となります。
参考:経営者保証|中小企業庁
経営の自由度が制限される
借入金や返済義務が大きいほど、事業承継後の経営判断が融資条件や金融機関との交渉に影響を及ぼす可能性が高まります。
たとえば新規投資や人員補強を検討しても、負債返済を優先せざるを得ない状況では思い切った経営戦略が取りづらくなるかもしれません。
これは事業の成長機会を逃すだけでなく、従業員のモチベーションにも影響を及ぼす要素です。そこで、借入条件の見直しや金利優遇措置の交渉、資本増強による財務体質の改善など、先手を打った対策を検討することが望ましいでしょう。
経営の自由度を高めるためには、承継前後の資金繰りを綿密に立てることが不可欠です。これによって金融機関の理解を得ながら、より柔軟な経営を実現できる可能性が広がります。
借金のある会社を継ぐ際のポイント
親族から借金のある会社を継ぐ際には、いくつかのポイントに着目する必要があります。
借金の状況を確認し、どのようにして借金と向かい合っていくかがポイントとなるでしょう。
資産と負債を正確に把握する
借金のある会社を承継する際には、まずその企業が保有する資産と抱えている負債の内訳を正確に確認することが不可欠です。
中小企業では資産が一緒くたにされ、先代経営者が保有する資産なのか、会社が保有する資産なのかが不明瞭な場合があります。
バランスシートや損益計算書を基に、固定資産や在庫、売掛金などの現状把握を行い、同時に借入金や未払金、手形などの負債項目についても詳細に精査します。
専門家によるデューデリジェンスを活用すれば、経営状態の把握精度がさらに高まるでしょう。
資産・負債の全体像を理解することで、必要な資金繰り対策や返済計画を立てやすくなり、事業承継後のリスクを最小限に抑えることができます。
現経営者との擦り合わせ
事業承継においては、現経営者との綿密なコミュニケーションが欠かせません。
特に借金のある会社を継ぐ場合には、負債の返済計画や連帯保証の継続有無など、お互いの認識を明確にしておく必要があります。
あわせて、経営方針や従業員への対応、主要取引先との関係性などについてもすり合わせを行い、承継後の経営ビジョンを共有しましょう。
先代から引き継ぐノウハウは、事業を安定的に継続・発展させるうえで大きな力となります。
ほかにも事業承継ローンや事業承継・引継ぎ補助金、経営承継借換関連保証制度の活用など、事前に検討しておくのもおすすめです。
両者が同じ方向を向いて協力体制を築くことで、余計なトラブルを回避しながらスムーズにバトンタッチが可能となります。
債務超過の状態を立て直す
債務超過とは、純資産がマイナスになっている状態を指し、このままでは金融機関からの追加融資や取引先からの信用確保が難しくなる恐れがあります。
事業承継を機に債務超過を解消するには、増資や資本提携、不要資産の売却などでバランスシートを改善することが有効です。
また、多くの中小企業では、代表取締役が自分の会社に個人的な資産を貸し付けるケースが見られます。この場合、事業承継の中で債務免除を行うことで、債務超過から脱することが可能です。
債務免除のメリットは経営者サイドの資産を減らすことで節税や財務の改善といった効果に期待が持てる点です。
貸付金がある状態で相続すると、貸付金にも税金が発生してしまいます。
注意点としては、債務免除を行った際、免除された債務に関して債務免除益として計上しなければならないことが挙げられます。
特に債務免除を行ったことで黒字に転じたら法人税も発生するため、支払う相続税と天秤にかけて検討しましょう。
具体的な借入金対策
事業承継の際は、確認されている借入金を少しでも圧縮することが何より重要です。
その際の対策として、支出を少なくすることや返済を緩やかにすることなど、色々なものが挙げられます。
以下では、具体的に活用できる借入金対策の手法を整理して解説します。
借金のある会社を分社化して事業承継する選択肢
今ある企業をよりよい状態にするには、事業承継のタイミングで借金のある会社を分社化して企業価値を高めていくなどの対策が必要です。
分社化などをする際には、いくつかの点で注意が必要となります。
ここでは、借金のある会社を分社化させて事業承継をしていく選択肢についてまとめました。
債務超過を避けられる
分社化を行うもう一つの大きなメリットは、もとの会社が抱える債務超過リスクを一定程度精算できる点です。
高収益部門を新会社に移転し、不採算事業や大きな負債は旧会社に残すことで、新会社のバランスシートを比較的健全な状態に保てます。
結果として、金融機関への追加融資や取引先からの信用獲得がスムーズに進む可能性が高まるでしょう。
ただし、旧会社の負債処理や連帯保証の取り扱いには十分な注意が必要です。法的整理や事業再生スキームとの組み合わせを検討し、債権者との合意を得ながら分社化を進めることが肝心です。
適切なプロセスを踏むことで、後継者は重い債務負担を背負わずに、成長性のある事業を手堅く引き継ぐことが可能になるでしょう。
まとめ
借金のある状態で後継者に継がせることは大変な一方、簡単に廃業させるのも心情的につらいものがあります。
だからこそ、少しでも後継者の負担を軽減させる施策を実施し、不安を少なくさせた形で事業承継を行い、まっさらな気持ちで経験を積んでもらうのが理想的です。
借金のある会社を継がせる際にさまざまな制度を用いたい場合には、専門家に相談を行って、問題のない形で進めていけるようにしましょう。