会社の売却は債務超過でも可能?価値評価と成功させるポイントを解説
事業の継続が難しくなり、「廃業」を検討する経営者の方は少なくありません。
しかし、債務超過状態であっても、M&Aという選択肢が残されている可能性があります。
「自社が抱える負債の大きさ」「従業員に対する責任」「廃業手続きの煩雑さ」など、経営者を悩ませる要素は多々ありますが、うまく売却が成立すれば事業や雇用を存続できる可能性も十分にあります。
この記事では、債務超過でも会社売却が可能な理由や、その具体的なメリット・デメリット、さらに売却を成功させるためのポイントについて解説します。
この記事を書いた人
松村昌典
株式会社エムアイエス 代表
山口県山口市(旧:阿知須町)生まれ 立命館大学経済学部卒業
大学卒業後、山口県中小企業団体中央会に入職。ものづくり補助金事務局を9年間担当。
2022年5月に独立し、株式会社Management Intelligence Service(現:株式会社エムアイエス)を立ち上げる。経営コンサルタントとして支援した企業はのべ1,000社以上。ITやマーケティングに関する知見の深さと、柔軟な発想力による補助金獲得支援に定評がある。自らのM&A経験を活かした企業へのM&A支援も得意とする。
「山口県から日本を元気にする経営コンサルタント」を合言葉に、山口県内の企業はもちろんのこと、県外企業へのコンサルティングも積極的におこなっている。
〈保有資格・認定〉
中小企業診断士
応用情報技術者
〈所属・会員情報〉
山口県中小企業診断士協会 正会員
山口県中小企業組合士会 正会員
山口県中小企業家同友会 正会員
目次
会社の売却は債務超過でもできる?
債務超過でも会社を売却できるのか、不安を抱える経営者は少なくありません。
しかし、債務超過の状態であるからといって、必ずしも買い手がつかないとは限りません。
ここでは、純資産がマイナスでも事業の価値を見出し、M&Aを成立させるための考え方を解説します。
債務超過とは
債務超過とは、貸借対照表で資産をすべて処分しても負債を返済できず、純資産がマイナスになっている状況を指します。
業績が悪化すると資金がショートして倒産を検討せざるを得ない場合もありますが、債務超過は必ずしも事業の終了を意味しません。
事業譲渡や分割など適切な手法を活用すれば、負担を軽減して再生や再建を実現できる可能性があります。
このような財務状況下であっても、自社が持つノウハウや従業員のスキル、既存顧客との取引実績が評価されれば、買い手にとっては有望な投資先となることがあります。
企業価値は純資産のみで決まらない
企業価値の算定では、貸借対照表の数字や時価だけでなく、将来の収益性や事業が持つ成長余地なども重要な要素になります。
たとえ純資産がマイナスでも、収益の拡大が見込めるビジネスモデルや技術、人材がある場合は買収するメリットが高いと判断されることがあります。
また、売り手が抱える債務を一部肩代わりしながら譲渡契約を行うスキームや、株式の対価を低い金額に設定して負債を整理しつつ事業承継を実施する方法も考えられます。
黒字転換への戦略が明確で、取引先や銀行からの支援が得られる段階なら、早期に専門家と相談して具体的な手続きを進めることが成功につながります。
債務超過の会社を売却するメリット
債務超過でも、事業に将来性や価値があればM&Aを通じて事態が好転する可能性があります。ここでは会社売却がもたらす具体的なメリットを解説します。
事業の継続ができる
会社売却による事業譲渡や株式譲渡などの手法を適切に活用すれば、倒産を回避して事業を継続できます。
たとえば、赤字による資金ショートが目前に迫る状況でも、他社による買収が成立すれば負債の一部を肩代わりしてもらえたり、ノウハウや人材が引き継がれることで収益性の改善を図れるケースもあります。
また、早期にM&Aを検討することで、金融機関や取引先との関係を急激に悪化させずに済む点も重要です。
買い手企業が将来の利益拡大を見込んで契約を結んだ場合、債権者への返済計画が再建策に織り込まれ、経営者の個人保証リスクや赤字の拡大を抑えられる可能性があります。
結果的に廃業せずに済むため、得意先との長年の取引や既存顧客を守りながら企業価値を高める道が開けるでしょう。
従業員の雇用を維持できる
会社が債務超過に陥ると従業員の雇用は大きな問題となりますが、M&Aによる売却なら雇用の維持が期待できます。
事業の継続が前提となれば、売り手は人材を活かした再生プランを買い手に提示し、対価や分割条件などを交渉することが可能です。ここで重要なのは、売上拡大や黒字化へ向けた具体的な戦略がしっかりと示せるかどうかです。
雇用が維持されれば社員のモチベーションが下がりにくく、ノウハウや取引関係が途切れずに済みます。
特に中小企業にとっては、優秀な人材を確保し続けることが将来の業績改善に大きく影響します。
万一、債権者から早急な債務返済を迫られている場合でも、買い手との協議を通じて、銀行との交渉や費用削減策を実施できれば、事業承継の一環として円滑なスキームを組み立てられるでしょう。
経営のプレッシャーから解放される
債務超過の状態が続くと、経営者は日々の資金繰りに追われ、借入金の返済計画や債権者との折衝など大きなストレスを抱えやすくなります。
経営者自身が赤字経営のプレッシャーに耐えきれず、早期に廃業を選択してしまう例も少なくありません。
しかし、会社売却という手段を取れば、結果的に従業員の雇用を守りながら手元に一定の資金を確保することも期待できます。
売り手がしっかりと意思決定し、将来の戦略を考慮した対応を取ることが、結果として再生・再建を実現するうえで大きな意味を持ちます。
債務超過の会社を売却するデメリット
純資産がマイナスのままM&Aを検討する場合、早期の事業再建が期待できる反面、デメリットが発生するリスクも見逃せません。
ここでは、売却に踏み切る際に起こりやすい問題や、経営者が注意すべきポイントを解説します。
事業価値が低い状態での売却になる
債務超過企業は貸借対照表上の純資産が大幅に減少しており、赤字や借入金が膨らんで資金ショートの危機に直面しているケースが少なくありません。
買い手から見ると、将来の収益性や事業のノウハウが評価材料になるとはいえ、現時点の財務状況が悪化していると売却価格は低く算定されがちです。
また、M&Aにかかわる費用や譲渡対価の計算で不利になる可能性があり、経営者や株主が手元に残せる金額は期待より少なくなるかもしれません。
必要に応じて事業譲渡や分割などの手法を活用しても、企業価値が十分に反映されず、結果的にコスト増が発生することも考慮すべきです。
金融機関との調整が必要になることが多い
債務超過状態だと、銀行をはじめとする金融機関や債権者が抱くリスクは大きくなります。
既存の借入金や債務の返済条件を見直す必要があれば、買収スキームを組む段階で関係各所と綿密な協議を行う場面が増えるでしょう。
この調整過程で信用を得られなければ、予定していた支援や追加融資が得られず、M&A自体が頓挫するケースもあります。
特に、個人保証や保証債務が絡む場合には、詐害行為と疑われないように慎重な手続きを踏む必要があります。
従業員の不安や反発
経営危機のうえに売却話が持ち上がると、従業員は将来への不安を抱き、モチベーションが下がる可能性があります。
事業承継による雇用維持のメリットを強調しても、「新しい経営者が業績改善できないのでは」「配置転換やリストラが行われるのでは」といった憶測が広がるかもしれません。
そのため、経営者は自社の状況や譲渡契約の目的を具体的かつ丁寧に説明することが重要です。
取引先にも影響を及ぼす重大な判断だからこそ、社内外への適切な情報提供やコミュニケーションを怠ると、結果として再生や再建が困難になるリスクが高まります。
早めの準備と説明が、成功事例につながる大きな鍵となるでしょう。
債務超過の会社の価値評価ポイント
債務超過でも企業の売却を検討する場合、貸借対照表の数字だけでは見えない要素を考慮してもらえることがあります。
ここでは、保有している資産や設備、事業の将来性、人材や技術といった観点から、どのように企業価値が評価されるのかを解説します。
保有する資産や設備
債務超過といっても、保有している資産や設備によっては企業としての魅力を十分にアピールできるケースがあります。
たとえば、製造業ならば生産ラインや特殊な機械設備を適切に活用し、今後の収益拡大を目指せる見込みがあるかが評価のポイントです。
時価よりも低い金額で譲渡する場合でも、買い手から見れば取引先との既存関係やノウハウを吸収して事業を継続・拡大できるメリットが得られるため、赤字状態でも売却が成立する可能性は十分にあります。
事業の将来性
既存顧客に対して強固な営業基盤を持ち、黒字転換への明確な手法が整っていれば、対価の計算ではリスク要素が加味されるものの、M&Aで成果を実現できると判断される場合があります。
経営者としては、将来の売上拡大や利益改善につながる具体的なシナリオを提示することが重要です。
金融機関や取引先との関係を保ちつつ、株主や従業員を含めたステークホルダーに対して、事業譲渡や分割など柔軟なスキームの意義を適切に説明することで理解を得やすくなります。
人材や技術
債務超過の会社でも、優秀な人材や独自の技術といった強みが買い手から高く評価される例があります。
ノウハウを持つ従業員の継続雇用や研究開発の成果が、新たな収益機会を生み出すと判断されれば、貸借対照表の純資産がマイナスであってもM&Aが成功する可能性は十分にあります。
技術力や人材力は単なる数字には反映されにくい要素です。しかし、しっかりとした再生・再建の戦略を示し、特定の業種や分野での競争優位性をアピールすれば、最終的な価格や契約条件で有利に交渉を進められるかもしれません。
特に中小企業の場合、キーパーソンの離職や開発体制の崩壊は大きな損失となるため、経営者は余裕を持って買い手とのコミュニケーションを図り、雇用維持や事業承継の条件を検討しながら手続きを行うのが不可欠です。
債務超過企業のM&Aでよく用いられる手法
赤字や負債を抱える企業が再建を図る際に活用される代表的な手法を紹介します。
適切に選択すれば、倒産リスクや財務負担を軽減しながら事業承継を実現することも十分に可能です。
株式譲渡
株式譲渡は、売り手の株主が保有する株式を買い手に譲渡する形式のM&Aです。
貸借対照表上の純資産がマイナスであっても、既存の取引先やノウハウ、従業員を含めた一体の企業価値が評価されれば成立するケースがあります。
負債や借入金もそのまま引き継がれるため、金融機関や債権者との交渉が必要になる場合が多いです。
経営者が早期に専門家の支援を受け、コストや条件を考慮しながら契約を締結することで、無理のない再生や再建を図ることができます。
事業譲渡
事業の中核部分だけを譲渡する手法です。債務や保証をすべて引き継がず、必要な資産や人材、ノウハウのみを買い手に移転しやすい点が特徴です。
企業が赤字や欠損を抱えている場合でも、黒字化見込みのある部門や収益源が明確になっていれば価値が認められるでしょう。
売り手としては手元に残る負債の処理が課題となる一方、負担を軽減しながら取引先や既存の業績を守りやすいメリットもあります。
吸収分割
吸収分割は、事業の一部や負債を切り離し、それを買い手企業が吸収する手法です。
譲渡対象を部分的に設定できるため、債務超過の実態を整理しながら負債解消や資金調達を進められる利点があります。
M&Aのスキームとしては複雑になりがちですが、企業価値を正しく算定したうえで銀行や債権者と協力し、倒産リスクや詐害行為への疑念を回避しながら再建を目指せます。
特に中小企業が業績を改善し、収益性を拡大したい場面で用いられます。
新設分割と株式譲渡の併用
新設分割と株式譲渡の併用は、元の会社から特定事業を分割して新会社を設立し、その株式を買い手に売却する手法です。
事業譲渡や吸収分割のように事業を直接取り込むのではなく、新会社を子会社化して独立性を確保できる点が特徴といえます。
債務超過でも、有望な事業ならば負債や貸借対照表を整理しながら、魅力あるスキームを組むことが可能です。
余裕をもって準備すれば、銀行や債権者との交渉も円滑になり、事業再生や継続につなげられるでしょう。
第二会社方式
第二会社方式とは、株式譲渡や事業譲渡、吸収分割、新設分割などの手法を状況に応じて組み合わせ、コア事業を別法人として切り出す手続きです。
売却した事業の対価をもとに負債を返済し、残る不要事業を迅速に清算できるため、有望な部分を再建・継続しつつ、全体の整理をスムーズに進められます。
債務超過の会社を売却する際のコツ
債務超過でも早期に対応すれば倒産を回避し、中小企業でも事業承継や再生を実現できる可能性があるため、ここではそのポイントを解説します。
債務超過の要因を明確にしておく
貸借対照表上で純資産がマイナスになっている理由は、経営者自身が正確に把握しておきましょう。
赤字経営が続き借入金の返済が困難になったのか、資金のショートが発生したのか、あるいは売上の減少に伴い負債が膨らんだのかなどです。
原因を具体的に理解すれば、買い手との契約交渉でも余裕を持った条件提示が可能になります。
金融機関や債権者との関係を良好に保つためにも、損失拡大の理由を踏まえた改善策を準備し、自社の事業価値をアピールすることが大切です。
高い価値になりづらいことを理解する
赤字や欠損を抱える企業は、時価評価や価格の算定でどうしても不利になってしまいます。
買い手にとっても負債を引き受けるリスクが大きく、事業再建までのコストがかさむため、譲渡対価は想定より低くなるかもしれません。
この状況を割り切って早期売却を図ることが、結果的には最善の判断につながるケースもあります。
特に、取引先や従業員への影響を最小限に抑えながら事業を継続したいのであれば、純資産のマイナス分を考慮してでもスムーズにM&Aを実施し、経営の負担を軽減する意味は大きいでしょう。
M&Aの専門家に相談する
債務超過企業の売却では、債権者や銀行との交渉、詐害行為のリスク管理、財務状況の開示など、多角的な問題に対処する必要があります。
買収スキームの設計や契約条件の調整はもちろん、株式譲渡や分割といった手法を適切に組み合わせることで、将来の収益性を拡大させる成功事例も少なくありません。
業績が悪化し、困難に直面している中小企業こそ、早期にプロと連携しながら対策を打つことで再建や事業承継を実現できる可能性があります。
最終的には債務の解消や雇用の維持につながり、経営者にとってもメリットが大きいでしょう
債務超過の会社売却に関するよくある質問
債務超過の会社を売却するとき、買収のメリットはあるのか、負債はどう扱われるのか、いざ検討すると不明点が尽きません。そこで、よく寄せられる質問と回答をまとめました。
債務超過の会社を買収するメリットは?
一見すると、純資産がマイナスの企業を買収するのはリスクが高いように思えます。
しかし、赤字であっても独自のノウハウや既存の取引先、人材を活用することで収益性を拡大できるケースもあります。
買い手にとっては、安価で価値ある事業を手に入れられるメリットがあり、将来の利益や黒字化が期待できれば倒産リスクを抑えながら企業価値を高められる可能性があります。
たとえば、債権者や銀行と協議のうえ借入金の返済計画を見直しながら再建を図れば、事業承継や早期の改善が実現しやすいでしょう。
会社を売却すると負債はどうなるの?
会社売却に伴う負債の扱いは、株式譲渡か事業譲渡かなど手法の選択によって変わります。
株式を丸ごと譲渡する場合は、原則として買い手が負債や保証債務を含めた財務状況を引き継ぐため、金融機関や債権者との交渉が必要です。
一方、事業譲渡や分割を行うケースでは、譲渡対象となる資産や負債を選別して移転できるため、売り手側が借入金や損失を一部抱えたまま事業の中核部分だけを移すことが可能です。
いずれのスキームでも、対価やコスト、時価の算定方法、倒産リスク回避などを考慮しつつ、買い手と売り手が納得できる契約条件を設定しなければなりません。
まとめ
債務超過だからといって、必ずしも廃業が唯一の選択肢ではありません。
将来性のある事業や蓄積されたノウハウ、人材が評価されれば、売却によって事業と雇用の両方を守れる可能性があります。
もちろん、売却が困難な場合もあり、状況によっては廃業が適切な判断となるケースもあるでしょう。大切なのは、「自社の本質的な価値はどこにあるのか」を明確にし、早めに専門家へ相談することです。
事業の継続が視野に入るなら、積極的にM&Aを検討し、適切な相手と交渉を行うことで道が開けるかもしれません。
一方で、どうしても廃業を選ばざるを得ない場合は、従業員とのコミュニケーションや手続きの準備を丁寧に行い、トラブルを最小限に抑えることが大切です。
経営者の決断ひとつで、事業や従業員の未来は大きく変わります。ぜひ、この記事をきっかけに、自社が取りうる最善策を検討してみてください。

