事業承継のためにホールディングス(持株会社)化を導入するメリットと注意点まとめ

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事業承継のためにホールディングス(持株会社)化を導入するメリットと注意点まとめ

事業承継のためにホールディングス(持株会社)化を導入するメリットと注意点まとめ

2024/10/10

中小企業が事業承継をする方法はいくつもありますが、その中の1つにホールディングス(持株会社)化があります。上場企業だけができるものではなく、中小企業でもホールディングス化は可能です。

本記事では事業承継を理由としたホールディングス化を中心に、メリットや注意点などを解説します。

この記事を書いた人

松村昌典

株式会社エムアイエス 代表

山口県山口市(旧:阿知須町)生まれ 立命館大学経済学部卒業

大学卒業後、山口県中小企業団体中央会に入職。ものづくり補助金事務局を9年間担当。

2022年5月に独立し、株式会社Management Intelligence Service(現:株式会社エムアイエス)を立ち上げる。経営コンサルタントとして支援した企業はのべ1,000社以上。ITやマーケティングに関する知見の深さと、柔軟な発想力による補助金獲得支援に定評がある。自らのM&A経験を活かした企業へのM&A支援も得意とする。
「山口県から日本を元気にする経営コンサルタント」を合言葉に、山口県内の企業はもちろんのこと、県外企業へのコンサルティングも積極的におこなっている。

〈保有資格・認定〉

中小企業診断士
応用情報技術者

〈所属・会員情報〉

山口県中小企業診断士協会 正会員
山口県中小企業組合士会 正会員
山口県中小企業家同友会 正会員

目次

    事業承継のためにホールディングス(持株会社)化をするメリット

    事業承継においてホールディングス化を目指す際のメリットは、大きく分けて5つ挙げられます。

    • 株式について相続や遺留分の回避ができる
    • 円滑な事業承継が実現できる
    • 先代経営者は利益を享受できる
    • 資金調達が比較的容易になる
    • 株式の分散を防止できる

    株式について相続や遺留分の回避ができる

    ホールディングス化を行うことで相続が発生せず、遺留分の問題を回避できます。遺留分は、法律上認められている法定相続人に与えられた最低限の権利です。

    例えば先代のオーナーが遺言で「親族には1株も渡さない」と明記しても遺留分が生じるので、親族に株式が渡り、多くの株主を生み出します。

    経営陣の意向をできる限り反映させるには、ホールディングス化は有効です。

    円滑な事業承継が実現できる

    ホールディングス化によって、円滑な事業承継が実現可能です。事業承継の際には、まとまった株式が移行しないと、次の経営者が舵取りをするのに苦労します。

    組織の体制が変わると、社員の中には次の経営者を快く思わない人もいるでしょう。事業承継をスムーズに行うには、株式を集約させて事業承継を目指すのが確実です。

    先代経営者は利益を享受できる

    先代経営者の立場からすると、手元に現金が残りやすくなるのが大きなメリットです。

    一代で会社を成長させた経営者などは自ら出資して作っているケースがほとんどなので、多くの自社株式が存在します。

    先代経営者が持つ自社株式を持株会社が購入する形になれば、先代経営者の手元には多くの資金が入り、資産形成が可能です。

    上場していない限り、手元に自社株があっても売却するには困難が伴いますので、先代経営者の現金を増加させるのにおすすめの方法です。

    ただし、現金化をすれば譲渡所得として所得税などの税金がかかるデメリットなど、税務面での問題が出てきます。

    資金調達が比較的容易になる

    事業承継の際、後継者が多額の資金を用意しなければならない場合があります。これは、事業や株式の取得に大きな費用がかかるためです。

    しかし、持株会社を活用することで、事業を個人ではなく会社を通じて承継することが可能です。これにより、金融機関からの融資を受けやすくなるという利点があります。

    金融機関から融資を受けるためには、返済の財源が明確であることが重要です。持株会社の場合、子会社からの配当金が返済の原資となるため、具体的な返済計画を提示できます。その結果、金融機関からの融資を受けやすい状況を作り出せるでしょう。

    株式の分散を防止できる

    持株会社のメリットとして、株式分散の防止が挙げられるでしょう。株式の状態で相続が発生すると、相続人がいればいるほど細かく相続がなされるため、株式が分散します。

    その後経営を立て直しをする場合、まずは株式を集めるところから始まり、事業承継がスムーズにいきにくくなるでしょう。

    その点、ホールディングス化を行えば、持株会社が株式を買い取った状態なので、分散せず、そのまま事業会社の経営を行えます。

    そもそもホールディングス(持株会社)化とは

    そもそもホールディングス化とは、どのような状態を指すのでしょうか。ここでは改めてホールディングス化について解説します。

    持株会社の基本的な仕組み 

    持株会社は複数の子会社の株を保有して子会社の事業をコントロールする目的で作られるものです。

    持株会社には以下の2つが存在します。

    • 純粋持株会社
    • 事業持株会社

    純粋持株会社は自らは事業をせず、子会社から受け取る配当を収入源とする企業です。事業持株会社は自らも事業展開を行います。

    ホールディングス化の強み 

    ホールディングス化の強みとして、事業会社が事業に特化した経営が行えるといった経営のスリム化が挙げられます。

    また、持株会社が決断することで事業会社がその決断に従う形で動くので、指揮系統がはっきりとする分、スムーズな意思決定につながるでしょう。

    また、会社分割を行い、いくつかの事業会社に分散させて関係性を構築することで、仮に1つの事業会社が経営判断を誤っても、他の事業会社への影響を抑えられます。

    ホールディングス化によって1社の問題がいきなり全体に波及する展開を避けられる点でも、ホールディングス化の価値はあるでしょう。

    事業承継のためにホールディングス化を導入するときの注意点

    事業承継を理由としたホールディングス化を目指す際には、いくつかの注意点があります。

    注意点といっても計画的に対策を立てれば問題がないものばかりですが、怠ると金銭的に大きな影響が出ることもあるため、気を付けなければなりません。

    ここでは、ホールディングス化の注意点を解説します。

     

    株式譲渡に対する課税

    先代経営者の自社株を持株会社に売却する際、譲渡益が発生し、譲渡所得税などがかかります。譲渡所得税は復興特別所得税を加味すると譲渡益のおおむね22%程度です。

    例えば、3,000万円の譲渡益があれば700万円近くを税金で持っていかれてしまいます。計画的な方法で譲渡をしないと、せっかく現金を手にしても魅力が半減する恐れがあるでしょう。

    相続税が発生する可能性

    相続税の発生も考えられるでしょう。相続税を回避する手段であると判断されると、相続税の支払いを求められることになります。

    あくまでもホールディングス化が節税対策であると判断されることがポイントで、決して節税対策ではないことをアピールする必要があるでしょう。 

    株式の分散防止などは立派な理由であり、税務署への説明が行えるように準備を進めておくことが大切です。

    管理コストの増大

    持株会社は単一の会社ではなく、グループ内に属する別個の企業として捉えるべきです。ホールディングス化された企業間での取引ももちろん行われますが、同じグループ内であっても、適切な手続きや対応が求められます。

    持株会社化により、管理業務が複雑化し、それに伴うコストが増加するリスクがあります。そのコストを見据えてアクションを起こすことが必要となるでしょう。

    金融機関への返済が必要になる

    ホールディングス化を活用した事業承継では、持株会社が金融機関から融資を受けることになり、金融機関への返済が必要になる場合が出てきます。

    純粋持株会社の場合は収入源は事業会社からの配当のみとなりますが、この配当が返済額を上回らないと厳しいでしょう。

    裏を返せば、融資の返済を行っても問題がないだけの利益を出せるかが課題です。

    租税回避行為と見なされるリスク

    ホールディングス化の行為そのものが租税回避と見なされる可能性があります。

    ホールディングス化に伴い、自社株の評価が下がったと見なされると追徴課税の可能性も出てきます。

    万が一、租税回避と判断されても、ホールディングス化が取りやめになることはありません。

    租税回避と判断されないためにも、事前に税理士や専門家に相談し、計画の策定を行いましょう。

    ホールディングス(持株会社)化による事業承継のスキーム

    ホールディングス化はどのように活用して事業承継における効果をあげていけるかがポイントです。

    ここでは、ホールディングス化のそれぞれの手法について解説します。

    後継者の出資による新会社の設立 

    まず後継者が出資を行って、事業会社の親会社となるホールディングスを新設します。後継者が全株式を取得することで、持株会社を経由してグループ会社を支配することが可能です。

    迅速に新会社の設立を実施し、状況を見定めていきます。

    金融機関からの融資を受ける

    後継者が手元に資金がない場合には、銀行など金融機関と融資契約を結び、融資を受けることが一般的となります。

    多額の融資を受ける際には、会社法において取締役会の承認・決議が不可欠です。取締役会がないケースでは、取締役が複数人いれば過半数の同意がなければなりません。

    金融機関の支援を受ける、もしくは提案を受ける際には取締役などに対応を一任するのもポイントです。

    先代からの株式譲渡

    ホールディングス化に向けて、先代経営者から株式譲渡をしてもらうことが欠かせません。

    ここで注意したいのが正確に株式譲渡契約書を作る点です。時間が経過してからトラブルが生じれば、長期的な問題に発展しかねません。

    株式譲渡の方法には、株式移転や株式交換があります。株式移転はグループ会社が複数ある場合、それぞれの会社が共同で会社を新設し、経営者個人が持つ株式をはじめ、すべてを移転させる方法です。

    株式移転や株式交換の際には株主総会の特別決議が必須となります。

    株式譲渡の承認手続き

    株式譲渡契約書を作成した後、譲渡に関する承認手続きに入りますが、譲渡に関しては会社法で決められており、会社法に従う方式をとります。

    ここまで来れば、あとは取締役会における承認手続きのみです。

    持株会社の取締役会での承認手続き

    会社法では、多額の融資を受ける際や事業承継での株式譲渡などをする際には、取締役会の承認が必要と定めています。

    一連の承認手続きでは、既存の取締役はもちろん、経営者も流れを理解していないケースが少なくありません。

    戦略的に組織再編を目指す、業務のスリム化や財務強化、別の企業を買収して傘下に入ってもらうM&Aなど、法人として気にするべきことはたくさんあるでしょう。

    取締役会での承認手続きをスムーズなものにするには、代表自らが制度を熟知する必要があります。

    ホールディングス(持株会社)化に関するよくある質問

    最後にホールディングス化に関してよくある質問をまとめました。ホールディングス化が与える影響にはどのようなものがあるのかを解説します。

    ホールディングス化すると株価は下がる可能性はある?

    ホールディングス化によって株価が下がる可能性は高いでしょう。要因として考えられるのはホールディングス化で生じる持株会社と事業会社の関係性です。

    基本的に持株会社は純粋持株会社として機能するため、収入源が事業会社の配当しかなく、収益はあまり見込めません。ホールディングス化を行えば、事業会社の株価は下がりやすくなる傾向が顕著です。

    一見すると問題が多そうに見えますが、株価が下がるメリットも存在します。非上場株式に関して、純資産価額計算をする際には子会社の株式の含み益のうち、37%の控除が可能です。

    将来的に節税につながるため、事業承継を理由としたホールディングス化のメリットが十分にあります。株価が下がる可能性は高いものの、決して悪い話ばかりではありません。

    ホールディングス化を利用した事業承継の失敗例は?

    ホールディングス化による失敗例で想定されるのが、最初から節税対策ありきで進んでしまったケースです。明らかに節税対策以外の理由がない場合、税務署から租税回避の指摘を受けやすく、せっかくのホールディングス化が台無しになります。

    また、管理コストが増大し、費用的な問題も生じやすく、ホールディングス化の弊害がダイレクトに出てしまうこともあるでしょう。

    節税対策ありきのホールディングス化は別名「守りのホールディングス化」と呼ばれます。

    ホールディングス化自体は成長に大きくつながる手法なので、節税対策ありきではなく、ホールディングス化を行っていかに攻めるかを考えなければなりません。

    租税回避と判断されないためにも、経営の部分でどのように攻めるのかをより検討した方がよいでしょう。

    まとめ

    事業承継を理由としたホールディングス化は、活用次第ではスムーズな事業承継や今の事業をより発展させるのに効果的です。

    一方で、念入りに計画を立てないと痛い目を見る可能性もあるでしょう。

    ホールディングス化に詳しい専門家に相談を行い、慎重に計画を立てていくほか、社員や親族、取引先への根回しなどを行うことが大切です。

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