後継者の選び方とは?会社の事業承継を成功させる跡継ぎの決め方

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後継者の選び方とは?会社の事業承継を成功させる跡継ぎの決め方

後継者の選び方とは?会社の事業承継を成功させる跡継ぎの決め方

2024/07/30

会社が存続していくうえで、事業承継は重大なイベントです。しかし、後継者が見つからず廃業を余儀なくされる会社も少なくありません。

帝国データバンクが2023年11月に公表した全国「後継者不在率」動向調査では、後継者が「いない」または「未定」とした企業は14.6万社で、後継者不在率は 53.9%でした。前年比では3.3ポイント低下し、2011年の調査開始以降、過去最低を更新し、後継者問題は改善傾向が見られます。

一方で、経営環境の急激な変化や後継者候補の辞退など、さまざまな要因によって頓挫したケースも少なくありません。

会社の事業承継を成功させるには、適切な方法で後継者を選定・育成し、さらには十分な引き継ぎを行うことが不可欠です。

参考:全国「後継者不在率」動向調査(2023年)

 

この記事を書いた人

松村昌典

株式会社エムアイエス 代表

山口県山口市(旧:阿知須町)生まれ 立命館大学経済学部卒業

大学卒業後、山口県中小企業団体中央会に入職。ものづくり補助金事務局を9年間担当。

2022年5月に独立し、株式会社Management Intelligence Service(現:株式会社エムアイエス)を立ち上げる。経営コンサルタントとして支援した企業はのべ1,000社以上。ITやマーケティングに関する知見の深さと、柔軟な発想力による補助金獲得支援に定評がある。自らのM&A経験を活かした企業へのM&A支援も得意とする。
「山口県から日本を元気にする経営コンサルタント」を合言葉に、山口県内の企業はもちろんのこと、県外企業へのコンサルティングも積極的におこなっている。

〈保有資格・認定〉

中小企業診断士
応用情報技術者

〈所属・会員情報〉

山口県中小企業診断士協会 正会員
山口県中小企業組合士会 正会員
山口県中小企業家同友会 正会員

目次

    後継者の選び方とポイント

    後継者の選び方には、いくつかの重要なポイントがあります。自社の事業や組織運営に関する深い知識と実務経験、重要な決断を下す判断力や実行力といった個人の能力に関するものはもちろん、なによりも会社のトップとして「経営を全うする覚悟」が大切です。

    自社事業の専門知識と実務経験がある

    会社のトップとして経営のかじ取りをする後継者には、自社事業に関する深い知識が不可欠です。

    単に事業の概要をつかんでいるだけでなく、各部門で行われている業務の詳細や組織体制、事業に必要なスキルなどを把握している必要があります。実務経験の有無も、その理解度に大きな影響を及ぼすでしょう。

    さらに自社だけでなく、業界全体を俯瞰して見る力を持っていることも大切です。重大な経営判断を迫られた際には、業界全体の将来の見通しや課題を認識していることがプラスに作用するでしょう。

    高い経営意欲と情熱がある

    経営者に求められる資質の中でも、重要なのが経営に対する意欲や情熱です。これは従業員としての能力とは全く異なるもので、仮に技術者として、営業マンとして優秀な方であっても、必ずしも経営者に適しているとは限りません。

    深い知識や実務経験を持ち、経営に関する優れたビジョンを有していたとしても、それを生かすために最終的に必要なのは「経営を全うする覚悟」だからです。

    強い決断力と実行力がある

    経営者の仕事は、判断の連続です。AかBかという選択はもちろん、会社の方向性を大きく転換する決断を迫られるケースもあるでしょう。このような重要な場面では、自身の責任で決断できる力と、決断した事柄を実行できる力が必要で、決断や実行に至るまでのスピード感も重視すべき要素です。

    ただし、この決断力や実行力は、必ずしも後継者1人の力によるものでなくても構いません。

    例えば、優れたリーダーシップやコミュニケーション能力があれば、他の役員や従業員から得た助言から適切な判断を下すことも可能です。

    決断を実行に移す際には、むしろこのような能力が後継者自身の決断力や実行力よりも有効に作用する可能性もあり得ます。リーダーシップやコミュニケーションの能力も、経営判断に必要な要素の1つです。

    後継者選びの判断基準が共有されている

    「どのような視点で後継者を選ぶのか」「どのような能力や人間性に重きを置いて指名するか」という判断基準や選定の条件が、前社長と後継者の間で共有されていることが大切です。

    後継者の指名は、会社の将来を決める重大な転機となり得ます。このため前社長は、自らが思い描く会社の将来像を踏まえて、それを実現してくれる後継者を選択することが大切です。

    複数の後継者候補の中から選ぶ場合には、全員がその判断基準を認識している必要があります。でなければ、継承に際して遺恨になる可能性も否めないからです。

    後継者選びの流れ

    後継者を決めるまでには、いくつかの段階を踏まなければなりません。特に経営者としての適性の見極めは、十分な時間をかけて慎重に進める必要があります。

    候補者のリストアップ

    中小企業の事業承継では、子どもや兄弟などの親族か、役員や従業員の中から候補者を選ぶケースが一般的です。

    しかし、社長自身が後継者に指名したいと考えた候補者がいても、本人が希望しないケースも珍しくはありません。

    このため後継者を選ぶ際には、はじめに候補者をリストアップした上で、本人の意思を確認しておくことが大切です。

    逆に本人にその意思があったとしても、育成していく中で「経営者にふさわしくない」という判断を下さざるを得ない可能性も想定しておかなければなりません。したがって、候補者は1人に絞らず、複数名を選んでおくことが望ましいでしょう。

    ヒアリング・アンケートの実施

    経営者には重い責任が伴います。このため経営者の資質の中でもとりわけ重視すべきなのが、「経営に対する意欲」「経営を全うする覚悟」です。

    仮に実務能力が高い方でも、経営者としての気概が備わっていなければ後継者には向かないでしょう。後継者候補としっかりと対話をすることで、適性を判断する必要があります。

    候補者の絞り込み

    経営者としての資質や本人の意思をもとに、候補者を絞り込みます。この段階で1人に絞る必要はありませんが、ある程度の人数に抑える必要はあるでしょう。それにより、自身が後継者候補であることの自覚が生まれます。

    候補者の教育には相当の時間と労力を要することも、候補者を絞り込む理由の1つです。

    候補者の教育と準備

    たとえ経営者に近い立場で長く会社を見てきた親族の候補者でも、実務経験が豊富で優秀な従業員であったとしても、経営者としての教育をしなければ会社のかじ取りは託せません。

    後継者の育成には、一般的に5〜10年の期間が必要です。

    後継者を育成する方法

    後継者の育成にはさまざまな方法があります。いずれの方法も、後継者自身の知識やスキルの向上だけでなく、経営者としての自覚の形成や、社内や取引先からの理解を得るために必要な手続きです。

    社内の部門ローテーション

    自社の業務を深く理解するために効果的な手法です。後継者候補を外部から招へいした場合や親族を呼び戻した際などにも多く用いられます。

    総務など経営者に近い立場の業務はもちろん、製造部門や営業部門など、いわゆる「現場」を一定期間ずつローテーションさせることによって事業の全体像だけでなく、現場でどのような業務が行われているかを具体的に知ることが可能です。

    また、さまざまな部門の社員と接することで、信頼関係を築けることもメリットでしょう。

    重要なプロジェクトの担当

    新商品開発や業務効率化、人材確保など、会社の課題解決に取り組むプロジェクトを立ち上げ、そのリーダーに抜擢するのも有効な方法でしょう。

    このようなプロジェクトは、経営者としての行動を学ぶのに良い機会であり、ここでリーダーシップを発揮することは経営者にとって不可欠な能力です。

    全社的なプロジェクトに取り組むことで、社内でのネットワークや信頼関係の構築につながるでしょう。

    他社での勤務経験

    他社での勤務を経験させ、自社とは異なる企業風土や勤務環境を知り、経営手法を学ぶことも後継者育成の手法の1つです。同業他社への勤務と、異業種の会社への勤務に大別されます。

    前者は「自社での教育では甘えが生じる」という考えから取り入れられることが多い、「親族の後継者候補を取引先で修行させる」などのケースです。同業種での勤務経験は、業界で人脈を広げる効果も期待できるでしょう。

    後者のケースは、より広い観点で経営に関する知見を深めることを目的として行われることが多く、例えば「金融機関に勤務して財務に関する知識を深める」などの事例が該当します。

    社外セミナーや勉強会への参加

    経営者向けのセミナーや勉強会への参加も、経営に関する基本的な知識やスキルを学ぶために取り入れられる手法です。特に、短期間で成果を得たい場面で最適でしょう。

    組織のマネジメントやマーケティング、財務など、数多くの民間企業や公益社団法人が経営者を対象としたセミナーを開催しており、経営に関する基礎的なスキルを効率的に身につける目的のほか、経営者同士の人脈づくりなどにも活用されています。

    資格の取得と専門知識の深化

    業務に関する資格の取得などを通じて、自社が扱う製品やサービスに関する専門知識を深堀することも有効な育成手法です。

    許認可を要する業種では、特定の資格者を置くことが義務付けられるケースも少なくないため、会社の責任者が資格を取得すること自体が直接的なメリットともなります。

    実際の経営面では有資格者を雇用することで解決できるケースが大半ですが、経営者自身が資格取得に取り組むことで業務内容の理解を深めたり、関連する法律の知識を備えたりすることが可能です。

    段階的な役職経験

    最終的に社長に就任する前に、段階的に役職を上げて権限を委譲していきます。会社全体で意思決定やリーダーシップを求める前に、部署という単位で能力を発揮する機会を与え、経験を積ませる方法です。

    この手法は、内部昇格のケースでは一般的に行われています。責任を負う範囲が段階的に大きくなることで、経営者としての能力を徐々に身につけられること、社内や取引先からの理解が得られやすいことがメリットです。

    子会社や関連会社の経営

    経営者として育成が進み一定の手腕が認められるようになったのであれば、子会社や関連会社の経営を任せるのも効果的です。

    実際に1つの会社の経営を経験しリーダーシップを発揮することで、後継者の経営能力・実務能力を高める効果が期待できるほか、その責任を体感することで経営者としての自覚を強くすることにもつながります。

    会社の事業承継の方法

    事業承継の代表的な方法は以下の3つです。

    1. 親族による承継
    2. 役員などの昇格
    3. M&Aによる外部承継

    それぞれの概要を見ていきましょう。

    親族による承継

    経営者が自身の子供や孫、兄弟などに会社の経営を引き継ぐ親族内承継は、日本の中小企業で最も一般的な手法です。

    社内や取引先からの理解を得やすく、前社長と後継者の関係性ゆえに企業風土や経営理念などが継承されやすいというメリットがあります。

    しかし、親族であるからといって必ずしも経営者としての資質を備えているとは限らず、本人に経営を継ぐ意思がないケースも少なくありません。このため後継者の選定から育成に長い期間を要することも多く、時間的な余裕をもって早い段階から取り組むことが重要です。

    役員などによる承継

    経営者の親族以外の役員や従業員を昇格させることも、一般的に行われる事業承継の手法です。

    長期間にわたって自社に勤務し、業績に貢献してきた役員などであれば、会社の事業を熟知しているというメリットがあります。

    社内に候補者がいるのであれば、早い段階から経営の中枢に関わる業務に取り組ませ、資質の見極めや育成に着手するのが望ましいでしょう。

    ただし内部昇格の場合には、会社の所有権の移譲が障害となる可能性に注意が必要です。仮に株式を前社長が所有したまま取締役に選任するだけでは、将来的に相続などで自社株が複数の相続人に分散されて経営に支障をきたす恐れがあるでしょう。

    マネジメント・バイアウト(MBO)によって会社を引き継ぐには、後継者が経営の安定のために必要な株式を取得するだけの資金力が問題となる可能性が生じます。

    社長が会社債務の連帯保証人になっている場合も多く、新たに社長に就任する後継者は、この保証債務を引き継がなければなりません。

    M&Aによる外部承継

    親族や自社の役員・従業人に適任者がいない場合や、自社での育成・外部からの招へいも難しい場合、会社を売却する選択肢も検討する必要があります。

    M&Aによって、外部に承継する手法です。M&Aによる外部承継では、一般的に買い手が現在の株主から株式を買い取り、会社のオーナーとして新たな経営者を指名します。

    例えば株式会社であれば、本来は株主が会社の所有者として経営者を選任する権利を持ち、指名された取締役などが経営の義務を負う「所有と経営の分離」の仕組みが原則です。

    しかし中小企業の多くは、経営の責任者である社長が筆頭株主であるケースが珍しくありません。つまり、会社を売却することは後継者を選任する権利自体を手放すことを意味しています。

    M&Aでの外部承継は、第三者が「その会社を買収することで利益を得られる」と判断する魅力がなければ成立しません。

    しかし、高い技術力や収益力、資産を持つ会社であっても、後継者の不在という理由で廃業を余儀なくされる事例は決して珍しくないため、M&Aによる外部承継への対応も選択肢の1つです。

    後継者の育成で大切なこと

    後継者の育成では、いかに「経営者としての自覚を持たせるか」という観点が重要です。経営者のさまざまな仕事の中で、最も重要な役割といえるのが「決断をすること」でしょう。経営者の決断1つで、会社の命運を左右する状況もあり得るからです。

    経営に対する意欲があり、それを全うする覚悟を持った人材を候補者として選ぶことはもちろん、育成の中で経営者としてのマインドを強固なものに育てていく必要があります。

    丁寧かつ計画的な引き継ぎをする

    後継者の育成とともに重要なのが、丁寧かつ計画的な引き継ぎです。ともすれば「育成」という側面ばかりを注視しがちですが、経営者として行っている実務をしっかりと引き継いでおかなければ、継承後にトラブルが生じるリスクもあり得えます。

    育成の一環として経営の根幹に関わる業務の経験を積ませる際には、後継者の「経営者としてのマインドやスキル」を高めるとともに、経営に関する実務を段階的に引き継いでいく工夫も必要です。

    継承後に会社の業績が落ちるケースでは、後継者の経験不足などではなく、実務の引き継ぎが適切でなかったという可能性も否定できません。

    経営への干渉を控える

    会社を承継した後には、後継者の手法や判断に対しての過度な干渉は避けるべきです。

    例えば新社長が「組織体制を刷新したい」「新しい事業に取り組みたい」と考えたとしても、前社長から反対や苦言があれば判断を躊躇したり、実行が鈍化したりするデメリットもあるでしょう。

    そもそも前経営者の考え方や経営手法が将来にわたって有効とは限りません。会社を取り巻く環境は著しく変化するため、それを後継者が続けたとしても、会社の継続や成長につながらない可能性もあります。

    引退後にはある程度の支援に留め、後継者を信じて一任することも大切です。

    まとめ

    事業承継をスムーズに行うには、できるだけ早い段階から候補者を選定し、時間をかけて計画的に育成していく必要があります。

    特に経営者の適性は、経営に対する意欲や覚悟、センスなど、個々の人物の資質による部分が少なくありません。

    後継者候補の適性を見極めること、十分な育成を行うことが、円滑な事業承継には不可欠です。

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