会社売却後の人生はどうなる?経営者が知っておくべきリスクと注意点まとめ
2024/08/23
会社を存続させる手法の1つとしても用いられる会社売却ですが、売却後の社員や経営者自身の人生に不安を覚える方もいるでしょう。
事業承継の手段の1つとしてM&Aの認知度は高まってきましたが、そのリスクや注意点までしっかりと把握されている方は少数派なのではないでしょうか。
そこで今回の記事では、会社売却後の経営者自身の人生や、会社に生じる変化について解説します。
この記事を書いた人
松村昌典
株式会社エムアイエス 代表
山口県山口市(旧:阿知須町)生まれ 立命館大学経済学部卒業
大学卒業後、山口県中小企業団体中央会に入職。ものづくり補助金事務局を9年間担当。
2022年5月に独立し、株式会社Management Intelligence Service(現:株式会社エムアイエス)を立ち上げる。経営コンサルタントとして支援した企業はのべ1,000社以上。ITやマーケティングに関する知見の深さと、柔軟な発想力による補助金獲得支援に定評がある。自らのM&A経験を活かした企業へのM&A支援も得意とする。
「山口県から日本を元気にする経営コンサルタント」を合言葉に、山口県内の企業はもちろんのこと、県外企業へのコンサルティングも積極的におこなっている。
〈保有資格・認定〉
中小企業診断士
応用情報技術者
〈所属・会員情報〉
山口県中小企業診断士協会 正会員
山口県中小企業組合士会 正会員
山口県中小企業家同友会 正会員
目次
会社売却後の人生はどうなる?
オーナー経営者が「経営からの引退」を決断した際、選択肢の1つとして考えられるのが会社の売却です。
売却後にどのような第二の人生を選択するかは、経営者の考え方によっても、売却に至った理由によっても異なります。代表的な例を見ていきましょう。
会社売却が経営者にもたらすメリット
「後継者不在のため」「会社のさらなる成長のため」「創業者利益のため」など理由はさまざまですが、多くのケースで経営者に一定の利益をもたらすのが会社売却です。
会社売却が経営者以外にもたらす影響
会社の売却は経営者だけでなく、さまざまなステークホルダーに影響を及ぼします。
他の役員や従業員、取引先に及ぼす影響にも気を配り、デメリットを最小限に抑えるように注意しなければなりません。
役員・従業員はどうなる?
役員や従業員は人的な資産であり、会社の価値を決定付ける要素の1つであるため、会社売却後にも引き続き任用・雇用は維持されるケースが一般的です。
個々の従業員が持つ技術や知識の集合体として会社が存在するという側面もあり、新たな人材に業務を引き継ぐよりも効率的に事業を進められる可能性が高いでしょう。
ただし、すべての従業員がそれに該当するとは限らず、役員に関しても引き続き選任されるとは限りません。
会社の売却によって経営の主体が代われば、経営方針にも変化が生じます。通常業務の遂行を主な役割とする従業員と異なり、経営に関する意思決定を行う取締役については「改めて人選する」との選択をするケースもあるでしょう。
同様に従業員に関しても、新たな経営方針においては重要視されない業務を担っていた場合には、本人の意にそぐわない配置転換などの待遇を受ける可能性が生じます。
取引先はどうなる?
買い手側は、既存の取引先も含めて会社の価値や事業の継続性を見極めています。取引先を含む人的ネットワークも譲り受けることを前提に会社を買収するため、既存の取引を継続したいと考えるのが一般的です。
一方で、取引先自体は必ずしも契約を継続したいと考えるとは言い切れません。前オーナーとの関係性から取引を継続していることも珍しくないため、オーナーの退任が契約を解除する要因になることも考えられます。
取引先には、売却を公にできる段階になり次第、できるだけ早期に十分な説明をし、理解を得ることが大切でしょう。
また、取引先との契約にCOC条項(チェンジオブコントロール条項=契約当事者の一方に支配権の変更があった場合、他方によって契約を解除できるなどの規定)が盛り込まれている場合は特に注意が必要です。
取引停止のリスクが見込まれる場合には、M&A自体が不調に終わる可能性もあり得ます。
会社売却を行うときの注意点
会社売却や事業譲渡では、ステークホルダーに与える影響を最小限に抑えるほか、予期せぬトラブルを防ぐためにさまざまな点に注意しなければなりません。特に重要なポイントを押さえておきましょう。
希望通りの会社売却ができるとは限らない
オーナー経営者が考える自社の企業価値と買い手側が判断する金額が釣り合わない場合には、希望通りの会社売却ができるとは限りません。また市場動向も大きな影響を及ぼすため、タイミングも重要です。
会社売却では、その会社の事業や資産、将来性に価値を見出し「買収したい」と考える買い手が見つからなければなりません。そのためには、自社の適正な価値を把握することが不可欠です。
売却を視野に入れているのであれば、財務内容を改善するなど企業価値を高める取り組みを意識しておく必要があります。
M&Aにおいては、事前にデューデリジェンスと呼ばれる経営状況や財務内容の調査が必須です。これによって買い手側が投資対象の価値を見極め、リスクとリターンを把握します。これらの手続きには専門的な知識が不可欠のため、外部の専門家の協力を仰いで最適な売却手法を検討することが大切です。
統合プロセスに注意する必要がある
会社売却が完了した後、新たな経営陣へのスムーズな事業の引き継ぎのためには、経営統合のプロセスが重要です。
M&A成立後の経営統合プロセスはPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)と呼ばれ、M&Aの成否を決める重要なポイントと位置付けられます。
買い手側の企業は、買収した会社に自社の経営資源を投入することで、生産性の向上やコスト削減を実現し、買収した時点よりも会社の価値を高めていくこと、いわゆるM&Aによるシナジー効果を目標とするのが通常です。
しかし、新たに買い手側の経営方針に沿った組織体制を構築したり、インフラや拠点を統合して効率化したりする過程には、さまざまな障害が生じる可能性があるでしょう。このため経営統合プロセスでは、売り手側の前オーナーの協力が不可欠です。
まとめ
会社売却は多くのステークホルダーに影響を及ぼしますが、成功すれば買い手と売り手双方の大きな成長につながる可能性がある取り組みです。
売却時や経営統合後に生じる可能性がある問題をしっかりと把握し解消することが、M&Aを成功に導く鍵になります。