M&Aの一連の流れは?買い手・売り手の準備も解説
2024/05/21
M&Aを検討する際は、一連の流れについて理解しておくことが大切です。また、買い手と売り手で行うべき準備が異なる点にも注意しましょう。
本記事では、M&Aの一連の流れについて紹介するとともに、各プロセスにおける買い手・売り手の準備、ポイントなどについても解説します。
この記事を書いた人
松村昌典(中小企業診断士)
株式会社エムアイエス 代表
山口県山口市(旧:阿知須町)生まれ 立命館大学経済学部卒業
大学卒業後、山口県中小企業団体中央会に入職。ものづくり補助金事務局を9年間担当。
2022年5月に独立し、株式会社Management Intelligence Service(現:株式会社エムアイエス)を立ち上げる。経営コンサルタントとして支援した企業はのべ1,000社以上。ITやマーケティングに関する知見の深さと、柔軟な発想力による補助金獲得支援に定評がある。自らのM&A経験を活かした企業へのM&A支援も得意とする。
「山口県から日本を元気にする経営コンサルタント」を合言葉に、山口県内の企業はもちろんのこと、県外企業へのコンサルティングも積極的におこなっている。
〈保有資格・認定〉
中小企業診断士
応用情報技術者
〈所属・会員情報〉
山口県中小企業診断士協会 正会員
山口県中小企業組合士会 正会員
山口県中小企業家同友会 正会員
目次
M&Aの一連の流れ
M&Aの検討段階からクロージングまでの流れについては以下のとおりです。
- M&Aの検討
- M&Aの条件の決定
- 必要書類の準備
- 買い手・売り手にアプローチ
- 秘密保持契約の締結
- M&A先として相応しいか検討する
- トップ面談
- 基本合意書の締結
- デューディリジェンスの実施
- 最終条件の交渉・決定
- 最終契約
- クロージング
それぞれの内容について、詳しく見ていきましょう。
【M&Aに必要な書類】
書類名 | 内容 | 買い手 | 売り手 |
秘密保持契約書 | M&Aの検討段階で、情報の漏洩を防ぐために必要な契約書 | 双方の協議のもと作成 | |
アドバイザリー契約書 | M&Aのアドバイザーとの契約書。アドバイザーの役割、報酬、契約期間などが定められる | 必要に応じて契約・締結する | 必要に応じて契約・締結する |
ノンネームシート | M&A候補企業の情報を大まかに示す書類。買い手に対して、売り手が企業名を伏せた状態で譲渡条件や事業内容などを開示する | 受け取る | 提出する |
企業概要書(IM) | M&A候補企業が提供する詳細な情報書類。事業内容、財務情報、今後の計画などを包括的に記載する | 受け取る | 提出する |
ロングリスト・ショートリスト | M&A候補企業を選別するためのリスト。ロングリストから絞り込まれたショートリストが最終的な候補となる | アドバイザーから受け取る | アドバイザーから受け取る |
意向表明書 | 買い手企業が売り手企業に買収意向を示す書面。買収価格や条件などが記載される | 双方の協議のもと作成 | |
基本合意書 | M&Aの条件や取引の詳細を定める契約書。買い手と売り手の間で合意された条件が明記される | 双方の協議のもと作成 | |
デューデリジェンス資料 | M&A取引において買い手が売り手の企業情報を詳細に精査するための資料。財務、法務、業務面などに関する情報が含まれる | 受け取る | 提供 |
最終契約書 | M&A取引の最終段階で締結される契約書。買収価格や条件、取引の締結日などが最終的に確定される | 双方の協議のもと作成 |
【M&Aにおけるデューディリジェンス】
デューディリジェンスの種類 | 内容 |
財務デューディリジェンス | 財務諸表の精査、財務指標、負債や資産の評価、税務状況の確認などを含む、売り手の財務状況を評価する |
法務デューディリジェンス | 契約書の検証、法的リスクの評価、知的財産権の確認、訴訟リスクの特定など、売り手の法的なポジションや契約の妥当性を評価する |
事業デューディリジェンス | 事業モデルの評価、市場分析、競合状況の確認、顧客ベースの評価など、売り手の事業の実態や市場ポジションを評価する |
技術デューディリジェンス | 特許や知的財産権の確認、技術の状況や適合性の評価、技術的なリスクの特定など、売り手の技術的なポジションを評価する |
人事デューディリジェンス | 従業員の評価、労働法の遵守状況の確認、人事リスクの特定など、売り手の人事面の状況を評価する |
これらのデューディリジェンスにより、買い手はM&Aのリスクを最小限に抑えるとともに、最終契約へ進むかどうか適切に判断できるようになります。
M&Aのプロセス別のポイント
M&Aを成功させるために押さえておくべきポイントについて、買い手と売り手に分けて詳しく解説します。
M&Aの検討
買い手
買い手は、市場の動向や戦略的な目標に基づき、M&Aを行うべきかどうかを検討します。買い手のM&Aの目的としては、業界や地域の競争力の向上、競合他社の買収による市場シェアの獲得、新規事業分野への進出などが挙げられます。
たとえば、自動車メーカーが電動車技術の開発を加速させるために、電気自動車の技術を持つ企業を買収します。
売り手
売り手は、自社の事業戦略や成長のためにM&Aを検討することがあります。また、赤字事業を切り離すことで企業全体のパフォーマンスを向上させたり、リソースを増やして新規事業を開始したりすることも目的の1つです。
たとえば、成長が鈍化した家電メーカー事業を売却し、黒字事業に注力するケースがあります。
M&Aの条件の決定
買い手
買い手は、M&Aの目的を達成するための売り手の条件を検討します。たとえば、ある地域における業界シェアを高めたい場合は、その地域に多くの顧客を抱えていることを条件とするとよいでしょう。また、M&Aにおける予算を決めることも重要です。M&Aのメリットに対してコストが高すぎると、損益分岐点を超えるまでに長期間がかかります。
売り手
希望譲渡額や従業員の扱い、オフィスビルや工場、設備機器の譲渡の有無などの条件を定めます。譲渡価額の計算方法にはさまざまな手法があり、この段階ではあくまでも希望譲渡額しか決めることはできません。買い手との交渉の中で譲渡額を確定させることになります。
買い手・売り手にアプローチ
買い手
買い手は、M&Aの条件を満たす売り手に対してアプローチします。売り手企業の特徴や強み、価値を評価し、どのようにアプローチするのかを検討する必要があります。M&Aで重視されるのは、シナジー効果です。これは、買い手と売り手のM&Aによる相乗効果を現します。たとえば、流通に強みを持つ企業を買収することで、自社製品を低コストで市場に流通させることができます。
このように、1+1が2ではなく3や4になるようなM&Aを目指すことが大切です。
売り手
売り手は、自社の事業や組織全体を売却できる買い手を選定します。買収に興味を持ちそうな企業にアプローチする必要があります。たとえば、地域密着型で医療機器販売を手がけてきた企業は、全国区の医療機器メーカーに事業譲渡や株式譲渡を持ちかけることで、興味を持たれる可能性があるでしょう。
売り手を選ぶ際は、希望譲渡額だけではなく、従業員の扱いについても条件を満たすかどうか確認が必要です。雇用を守るためにM&Aを選択するのであれば、従業員ごと譲渡できる買い手を選ぶ必要があります。
M&A先として相応しいか検討する
買い手
買い手は、戦略的な目標や業界の動向に基づいて、M&A先が自社のビジネス戦略とどの程度一致しているかを確認します。たとえば、自動車メーカーが電気自動車市場への進出を目指す場合、電気自動車を販売している企業や電気自動車の組み立て、パーツの製造などに強みを持つ企業が売り手となるでしょう。
M&A先の技術力や市場シェア、財務状況などを評価し、シナジー効果を得られるかどうかを判断する必要があります。
売り手
売り手は、事業や組織全体を売却する際に、買い手が自社の価値を最大化し、事業の継続性を確保できるかどうかを確認します。企業のブランドを残したい場合、将来性がない買い手に譲渡しても数年のうちに倒産することになりかねません。そうなれば、元従業員も路頭に迷うことになるため、買い手としては相応しくないでしょう。
最終条件の交渉・決定
買い手
買い手は、買収価格や支払い方法、契約条件などを売り手と交渉します。たとえば、買い手がベンチャー企業を買収する場合、独占している技術を譲渡する契約になっているかどうかを確認することが重要です。また、買収後における売り手企業の従業員の待遇、キャンセル時の損害賠償請求などについても取り決めます。
売り手
売り手は、自社の評価や譲渡価額などに基づいて、取引条件を検討します。買収価格の算定方法や支払いスケジュールなどを交渉し、契約条件に関しても慎重に確認しましょう。最終契約には法的拘束力があるため、署名と押印をした後は安易にキャンセルできません。これまでに重ねた交渉よりも慎重な姿勢で臨むことが大切です。
クロージング
買い手
買い手は、クロージングに向けて最終的な準備を整えます。最終契約書の内容に基づき、資金の手配、各種書類の手続きなどを行います。売り手企業の従業員を迎え入れるのであれば、その準備も必要です。従業員の配属先だけではなく、企業になじめるように施策を講じることも大切です。
売り手
売り手も最終契約書の内容に従って、組織全体または事業を譲渡する準備を進めます。従業員も買い手企業に転籍する場合は、その旨を本人に伝えて了承を得る必要があります。なお、M&Aを実施する旨は、実施直前までは伝えないことが一般的です。早期の段階で伝えてしまうと退職者が続出し、M&Aに支障をきたす可能性があります。
クロージングの手法は、M&Aの種類によって異なります。株式譲渡では、売り手から買い手へ株式を譲渡する形で、経営権を譲渡します。上場企業では、証券保管振替機構の規定に従って株式の移転が行われます。事業譲渡では、売買される事業資産や負債の移管が主な内容です。合併や会社分割では、合併契約や分割契約に基づき、新しい会社の設立や承継が行われます。
M&A後は補助金を活用して円滑に事業を進めよう
M&Aが完了した後は、事業を円滑に進めるために補助金を活用することが大切です。M&A後は、組織体制を整えるのにコストがかかります。また、売り手も新たな事業を開始するために多額の費用を必要とすることがあります。
M&Aの補助金は、新たな技術の開発や設備の導入、人材育成などの事業活動を支援するためのものです。補助金を受け取るためにはさまざまな条件を満たしたうえで適切な手続きを行う必要があります。
株式会社エムアイエスは、ものづくり補助金事務局での豊富な経験を持っている代表がM&Aの補助金申請をサポートしています。プランニングから補助金交付までトータル的に支援いたしますので、まずはお気軽にご相談ください。