M&Aで利用できる補助金一覧!利用条件や注意点も解説
2024/03/26
M&Aにおいては、「事業承継・引継ぎ補助金(通称:事業承継補助金)」を利用できる可能性があります。事業承継の際は、専門家への依頼や経営資源の引継ぎなどにさまざまな費用がかかります。このような費用の問題を解決し、M&Aを促進することが目的です。
本記事では、M&Aで利用できる補助金を一覧で紹介するとともに、それぞれの利用条件や種類、注意点などについても解説します。
この記事を書いた人
松村昌典(中小企業診断士)
株式会社エムアイエス 代表
山口県山口市(旧:阿知須町)生まれ 立命館大学経済学部卒業
大学卒業後、山口県中小企業団体中央会に入職。ものづくり補助金事務局を9年間担当。
2022年5月に独立し、株式会社Management Intelligence Service(現:株式会社エムアイエス)を立ち上げる。経営コンサルタントとして支援した企業はのべ1,000社以上。ITやマーケティングに関する知見の深さと、柔軟な発想力による補助金獲得支援に定評がある。自らのM&A経験を活かした企業へのM&A支援も得意とする。
「山口県から日本を元気にする経営コンサルタント」を合言葉に、山口県内の企業はもちろんのこと、県外企業へのコンサルティングも積極的におこなっている。
〈保有資格・認定〉
中小企業診断士
応用情報技術者
〈所属・会員情報〉
山口県中小企業診断士協会 正会員
山口県中小企業組合士会 正会員
山口県中小企業家同友会 正会員
目次
事業承継・引継ぎ補助金とは
事業承継・引継ぎ補助金は、中小企業や個人事業主が事業承継や経営資源の引継ぎを行う際にかかる費用を補助する制度です。公募に対して条件を満たしている対象者が応募し、審査に通過できれば補助金が交付されます。
公募は通年で行われているものの、3〜4か月ごとに締め切りが設けられていることから、期限までに応募できるように計画を立てる必要があります。たとえば、M&Aは買い手と売り手の合意形成やデューデリジェンスなどに時間がかかるため、計画通りに手続きが進まないと期限に間に合わない事態になりかねません。
申し込み期限から逆算し、計画的にM&Aを進めることが大切です。
事業承継・引継ぎ補助金の目的
事業承継・引継ぎ補助金は、後継者不足や高齢化による事業承継の課題に対応するための支援制度です。後継者不在の中小企業が休廃業を避けるための支援や、M&Aを通じて事業を継承する企業の経営資源を維持することが目的です。
日本では後継者不足が深刻化しており、高齢化が進む中で事業承継が課題となっています。黒字経営であっても後継者不在のために休廃業を選択せざるを得ない事業も増加傾向にあります。そこで注目されているのがM&Aです。後継者不在の中小企業が経営資源を維持するための手段として重要視されています。
さらに、M&Aを実施した企業は労働生産性や業績が高いというデータもあることから、後継者問題を解決しつつ企業の成長につながる、ビジネス上非常に有効な手段です。
事業承継・引継ぎ補助金は、M&Aの前段階や後の経営革新のための専門家活用費用や新事業展開の費用を補助することで、事業の安定的な承継を支援します。
事業承継・引継ぎ補助金の3つの類型
事業承継・引継ぎ補助金には、以下3つの類型があります。
申請類型 | 対象 | 補助率 | 補助上限 |
---|---|---|---|
経営革新 | ・経営資源引継ぎ型創業や事業承継、M&Aを過去数5年以内に行った者
・補助事業期間中に行う予定の者(親族内承継実施予定者を含む) |
1/2・2/3 | ~600万円 |
1/2 | 600万
※一定の賃上げを行う場合は800万円 |
||
専門家活用 | 補助事業期間に経営資源を譲り渡す者または譲り受ける者 | 1/2・2/3 | ~600万円
※M&A未成約の場合は~300万円 |
廃業・再チャレンジ | 事業承継やM&Aの検討・実施等に伴って廃業等を行う者 | 1/2・2/3 | ~150万円 |
出展:経済産業省ミラサポplus | 中小企業庁担当者に聞く「事業承継・引継ぎ補助金」
なお、補助率は補助対象の要件によって異なるため、資金不足を防ぐためにも低い補助率が採用されることを想定しておきましょう。
事業承継・引継ぎ補助金のそれぞれの類型について、詳しく解説します。
経営革新事業
経営革新事業は、事業承継後の新たな取り組みを支援する補助制度です。補助対象経費には、店舗の借入費や設備費などがあります。
以下、3つのタイプに分類されます。
申請類型 | 対象 | 特徴 |
---|---|---|
創業支援型(Ⅰ型) | 他の事業者の経営資源を引き継いで創業する場合 | 事業承継・引継ぎ支援センターやM&Aマッチングサービスを通じて経営資源を引き継ぎ、法人を設立したり個人事業主として開業する場合が対象 |
経営者交代型(Ⅱ型) | 親族や従業員が経営を引き継ぐ場合 | 経営者の交代に伴う取り組みや後継者候補の承継前の活動も補助対象になる |
M&A型(Ⅲ型) | M&Aにより経営資源を引き継ぐ場合 | 同業他社や取引先の経営資源を引継ぎ、事業再編や統合を行う場合が対象 |
専門家活用事業
専門家活用事業は、M&Aを行う際にかかる専門家への依頼費用を支援する制度です。M&Aの際は、税理士や弁護士、M&Aアドバイザーなど、さまざまな専門家のサポートを受ける必要があります。M&Aでは買い手と売り手の双方に専門家への依頼費用がかかるため、それぞれに補助が行われています。ただし、対象となるのはM&A支援機関登録制度において登録支援機関に認定された専門家のみです。
未登録の専門家への依頼費用は補助の対象外のため、補助金制度を利用したい場合は登録支援機関を中小企業庁のページで検索し、依頼先を検討しましょう。
類型 | 手段 | 内容 |
---|---|---|
買い手支援型 | 株式譲渡
第三者割当増資 株式交換 吸収合併 吸収分割 事業譲渡 |
事業再編・事業統合に伴い株式や経営資源を譲り受ける予定の中小企業等を支援する |
売り手支援型 | 株式譲渡
株式譲渡+廃業 |
事業再編・事業統合に伴い株式や経営資源を譲り渡す予定の中小企業等を支援する |
廃業・再チャレンジ事業
廃業・再チャレンジ事業は、事業を承継する際に生じる廃業に関わる費用を支援する制度です。
たとえば、赤字事業の売却を目的にM&Aを検討したものの、買い手との合意に至らなかった場合は廃業せざるを得なくなる可能性があります。また、一部の事業のみ廃業するケースも少なくありません。このような場合に発生する廃業登記費や在庫処分費、原状回復費、建物の解体費、リースの解約費などの費用が補助されます。
以下、2つの種類があります。
タイプ | 説明 |
---|---|
併用申請型 | 経営革新事業や専門家活用事業と併用できる。譲り受けた事業のすべてもしくは一部を廃業する場合に適用。売り手支援型専門家活用事業とも併用可能。 |
再チャレンジ申請型 | M&Aでの譲り渡し成約に至らなかった事業者が、新たな雇用創出や経済活性化を目指し、既存事業を廃業する場合に適用。廃業登記や在庫処分、設備の解体費用が対象。 |
利用するためには、廃業と再チャレンジそれぞれに設けられた条件を満たす必要があります。
廃業に伴って求められる行動 | 再チャレンジの際に求められる行動 |
---|---|
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参考:事業承継・引継ぎ補助金事務局|中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金 廃業・再チャレンジ事業 7次公募 公募要領
廃業・再チャレンジを単独で使用する場合は、廃業予定の中小企業と、その会社の議決権の過半数を有する株主、または対象会社の議決権の過半数を有する株主の代表者が共同で申請する必要があります。
事業承継・引継ぎ補助金の申請の流れ
事業承継・引継ぎ補助金の申請の流れは、3つの類型で多少異なります。経営革新と廃業・再チャレンジは、認定経営革新等支援機関への相談と認定経営革新等支援機関からの確認書発行が必要です。
gBizIDプライムのアカウントは、国内の行政サービスの認証に利用します。申請から発行までの期間は通常1週間程度ですが、2〜3週間かかる場合もあるため、計画的に申請することが大切です。
補助金の額は事業内容や経費の内容に基づいて確定し、経営革新事業の場合は収益状況報告も必要です。実地検査が行われる場合もあるため、不備を指摘されないように備えましょう。
それぞれの申請の流れは下記のとおりです。
経営革新事業
- 「gBizIDプライム」アカウントの取得(未取得の場合)
- 公募要領の確認
- 補助事業の制度等に関する理解
- 認定経営革新等支援機関への相談
- 補助事業計画等の作成
- 認定経営革新等支援機関からの確認書発行
- 交付申請書類の作成準備
- オンライン申請フォーム(jGrants)への必要事項入力
- 書類添付申請処理の完了
専門家活用事業
- 「gBizIDプライム」アカウントの取得(未取得の場合)
- 公募要領の確認
- 補助事業の制度等に関する理解
- 補助事業計画等の作成
- 交付申請書類の作成、準備
- オンライン申請フォーム(jGrants)への必要事項入力
- 書類添付申請処理の完了
廃業・再チャレンジ事業
- 「gBizIDプライム」アカウントの取得(未取得の場合)
- 公募要領の確認
- 補助事業の制度等に関する理解
- 認定経営革新等支援機関への相談
- 補助事業計画等の作成
- 認定経営革新等支援機関からの確認書発行
- 交付申請書類の作成、準備
- オンライン申請フォーム(jGrants)への必要事項入力
- 書類添付申請処理の完了
事業承継・引継ぎ補助金の加点事由
事業承継・引継ぎ補助金は、単に申請条件を満たしているだけでは、必ず採択されるとは限りません。各事業における加点事由を満たすことで、採択される可能性が高まります。各事業の加点事由について、詳しく見ていきましょう。
-
経営革新事業・専門家活用事業
経営革新事業と専門家活用事業における加点事由は以下のとおりです。
- 「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」の適用を受けている
- 交付申請時に有効期間における「経営力向上計画」の認定、「経営革新計画」の承認、「先端設備等導入計画」の認定のいずれかを受けている
- 「地域おこし協力隊」として地方公共団体から委嘱を受けており、なおかつ当該地域(市区町村)で取り組みを実施する
- Ⅰ型の申請で、認定市区町村の「特定創業支援等事業」の支援を受けている
- Ⅰ・Ⅲ型の申請で、補助対象となる事業承継の形態に関するPMI計画書が作成されている
- 「地域未来牽引企業」、「健康経営優良法人」、「サイバーセキュリティお助け隊サービス」を利用する中小企業のいずれかを満たしている
- 「(連携)事業継続力強化計画」の認定を受けている
- 申請者の代表者が「アトツギ甲子園」の出場者
- 女性活躍推進法に基づく「えるぼし認定」を受けている事業者
- 従業員100人以下の事業者で「女性の活躍推進企業データベース」に女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を公表している
- 「くるみん認定」を受けている事業者
- 従業員100人以下の事業者で「両立支援のひろば」に次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を公表している
- 事業化状況報告時に、従業員に対して事業場内最低賃金が地域別最低賃金+30円以上の賃上げを実施することを表明している
参考:事業承継・引継ぎ補助金事務局|中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金 経営革新枠 9次公募 公募要領
廃業・再チャレンジ事業
廃業・再チャレンジ事業の加点事由は以下のとおりです。
- 再チャレンジする代表者の年齢が若い
- 再チャレンジの内容が起業または引継ぎ型創業
- 事業化状況報告時に、事業場内最低賃金が地域別最低賃金+30円以上の賃上げを実施することを表明している(すでに賃金の条件を満たしている場合は、事業化状況報告時に事業場内最低賃金+30円以上となる賃上げを実施していること)
参考:事業承継・引継ぎ補助金事務局|中小企業生産性革命推進事業 事業承継・引継ぎ補助金 廃業・再チャレンジ枠 9次公募 公募要領
事業承継・引継ぎ補助金を利用するメリット
事業承継・引継ぎ補助金を利用するメリットは次のとおりです。
費用の補助による経済的効果
事業承継やM&Aには多額の費用がかかります。たとえば、専門家のコンサルティング費用や法務費用、または事業の再構築に必要な資金などが必要です。事業承継・引継ぎ補助金を利用することで、これらの費用の一部を補助してもらえるため、事業継承プロセスにかかる負担が軽減されます。
経営資源の維持と事業の持続性の確保
後継者不在や高齢化による事業承継の困難さは、中小企業にとって深刻な課題です。事業承継・引継ぎ補助金は、後継者不在の中小企業が休廃業を回避し、事業の継続性を確保するための支援を提供します。
M&Aを通じて事業を継承する企業は、補助金制度の活用によって経営資源を維持できるようになり、事業の存続が確保されます。これにより、地域経済や雇用の安定にも貢献できるため、自社にとっても地域経済にとってもメリットです。
経営革新と競争力の向上
経営革新事業では、事業承継後の新たな取り組みを支援します。たとえば、新しい技術の導入やサービスの拡充、生産プロセスの改善などが含まれます。
これにより、事業の競争力が向上し、成長が促進されます。補助金を活用して、事業を革新することで市場のニーズに応え、収益性を高めることが可能です。
再チャレンジの促進と新たな雇用の創出
廃業・再チャレンジ事業は、M&Aでの成約に至らなかった事業者が再出発する際の支援を提供します。これにより、事業者が新たな取り組みを開始し、新たな雇用の創出につながります。再チャレンジを促進することで、地域経済の活性化や雇用機会の拡大に貢献します。
事業承継・引継ぎ補助金の注意点
事業承継・引継ぎ補助金を活用する際には、いくつかの注意点があります。
申請期限に注意を払うこと
補助金の申請期限は通年で行われていますが、締め切りが設けられています。M&Aには合意形成やデューデリジェンスなど時間がかかるため、計画的に手続きを進める必要があります。期限に間に合わないと補助を受けられない可能性があるため、十分な準備を行うことが重要です。
たとえば、M&Aのデューデリジェンスや契約交渉には膨大な時間がかかることもあります。そのため、事前に申請期限を把握し、スケジュールを立てておくことが必要です。
補助率や上限に留意すること
補助金の補助率や上限は申請者の条件や補助対象によって異なります。低い補助率が適用されることもあるため、資金計画を立てる際は注意が必要です。
たとえば、補助金の補助率が1/2で、補助上限が600万円の場合、1000万円の費用がかかるプロジェクトに対しては補助金が最大でも600万円までとなります。そのため、補助金を利用する場合でも自己資金や他の資金調達手段を検討する必要があります。
専門家の選定に注意を払うこと
補助金を利用する際には、M&Aに関する専門家のサポートを受ける必要があります。ただし、補助金の対象となるのは登録支援機関に認定された専門家のみです。未登録の専門家への依頼費用は補助の対象外となるため、専門家を選定する際には登録状況を確認することが重要です。また、登録支援機関に認定されている専門家は実績や信頼性、スキルなどに優れていると判断できます。
事業承継・引継ぎ補助金を活用しましょう
事業承継・引継ぎ補助金は、後継者不足や高齢化による事業承継の課題に対応する支援制度です。補助金を活用することで、事業の継続性が確保され、経営資源の維持や競争力の向上、新たな雇用の創出が促進されます。計画的な申請と適切な手続きを行うことが重要であり、加点事由を活用して採択される可能性を高めることも大切です。
事業継承を検討している企業や個人は補助金を積極的に活用し、円滑な事業承継を目指しましょう。また、補助金の申請に不安がある場合は、補助金申請をサポートしている業者に任せるのがおすすめです。
株式会社エムアイエスの代表は、ものづくり補助金事務局において9年間にわたりおよそ2,000件の補助金申請書を確認、実行を支援してきました。
プランニングから補助金交付までトータル的に支援いたしますので、まずはお気軽にご相談ください。