事業承継で役員借入金はリスクになる?解消方法を詳しく解説します!
2025/02/14
事業承継において、見落とされがちなのが「役員借入金」に関するリスクです。
役員借入金とは、経営者が会社に私財を貸し付けている状態のことで、バランスシート上は負債として扱われます。
承継時にこの役員借入金をどう処理するかで、相続税の負担や金融機関からの評価に影響が生じ、事業承継後の経営に支障をきたす可能性もあります。
本記事では、事業承継時に役員借入金がリスクとなる理由を整理するとともに、その解消方法について詳しく解説します。
この記事を書いた人
松村昌典
株式会社エムアイエス 代表
山口県山口市(旧:阿知須町)生まれ 立命館大学経済学部卒業
大学卒業後、山口県中小企業団体中央会に入職。ものづくり補助金事務局を9年間担当。
2022年5月に独立し、株式会社Management Intelligence Service(現:株式会社エムアイエス)を立ち上げる。経営コンサルタントとして支援した企業はのべ1,000社以上。ITやマーケティングに関する知見の深さと、柔軟な発想力による補助金獲得支援に定評がある。自らのM&A経験を活かした企業へのM&A支援も得意とする。
「山口県から日本を元気にする経営コンサルタント」を合言葉に、山口県内の企業はもちろんのこと、県外企業へのコンサルティングも積極的におこなっている。
〈保有資格・認定〉
中小企業診断士
応用情報技術者
〈所属・会員情報〉
山口県中小企業診断士協会 正会員
山口県中小企業組合士会 正会員
山口県中小企業家同友会 正会員
目次
事業承継で役員借入金の抱えるリスクやデメリットは?
中小企業の事業承継では、会社の負債だけでなく、経営者個人が会社に貸し付けている資金の扱いにも注意が必要です。
ここでは、事業承継において役員借入金がリスクになるポイントをまとめました。
金融機関の評価が下がる
役員借入金に頼った経営をし過ぎると、債務超過の状況を発生させるリスクがありますが、そのリスクに付随する形で注意したいのが金融機関の評価です。債務超過となれば、金融機関からの信頼は落ちやすくなります。
一方で役員借入金がなぜ多いのかなどの説明をすれば、資本金として扱ってもらえる可能性もあるでしょう。
ただ、債務超過の状態にあることに変わりはなく、評価を落としても不思議ではありません。
多額の役員借入金は、金融機関にとって「経営者と会社の境界線が不明瞭」と捉えられがちな要素です。
特に中小企業において、経営者の個人資産と会社資産が混同しているケースは少なくありません。
こうした状況下で大量の役員借入金が残ったままだと、「返済能力の判断がつきにくい」として金融機関の評価が下がるリスクがあります。
結果として、新たな融資を受けにくくなる、あるいは融資条件が厳しくなるなど、資金調達に不利が生じる可能性が否定できません。
後継者としては、事業承継前後で役員借入金を圧縮あるいは整理しておくことで、金融機関との信頼関係を維持しやすくなります。
そもそも役員借入金とは?
役員借入金の発生経緯や性質を理解しておくことで、事業承継の際に起こり得る税務リスクや財務リスクを回避しやすくなります。
ここでは、役員借入金の基本的な仕組みを3つの視点から解説していきます。
増資と比べると節税効果がある
役員借入金は、同じ会社への資金投入でありながら「増資」とは異なる扱いを受けます。
増資を行うと、その資金は株主からの出資として資本計上されるため、会社の純資産が増加します。
一方、役員借入金は負債として計上されるため、会社としては金利が経費計上される可能性がある点や、役員から見ても株式配当を受け取るよりキャッシュフローを柔軟にコントロールしやすいといったメリットがあるのです。
また、増資による株数の増加は将来的な相続税負担の増大にもつながり得ます。役員借入金として処理することで、節税面を含めた総合的なメリットを得やすい反面、前述の返済計画や税務リスクをきちんと管理しておく必要があります。
役員借入金を削減する方法
役員借入金が多額になると、債務超過リスクや相続税負担の増加など、会社の企業価値にさまざまな影響を及ぼします。
そこで、経営の安定化や円滑な事業承継や事業譲渡を実現するために、役員借入金を削減する具体的な方法を把握しておくことが重要です。以下では、代表的な方法を紹介します。
DES(デット・エクイティ・スワップ)
DES(デット・エクイティ・スワップ)とは、会社が負っている債務を株式に振り替える方法です。
具体的には、役員借入金という負債を、債権者(=役員)の出資として株式に転換することで、バランスシート上の負債を圧縮し、純資産を増やすことが可能です。
これにより債務超過リスクが軽減され、金融機関からの評価も向上しやすくなります。
ただし、DESを実行すると株式保有比率が変わり、新株発行にともなう既存株主との調整が必要になる点には留意しましょう。
相続や事業承継の観点からも、どのタイミングでDESを行うのか、税理士などの専門家に相談を行ったうえで、事前にシミュレーションすることが重要です。
役員の給与を減額する
財務改善策の一環として、役員が受け取る給与を減額し、その分を借入金の返済に回すという手法もあります。
役員報酬を下げることで会社の利益を押し上げ、内部留保を増やしやすくなるため、結果として役員借入金の返済原資を確保しやすくなるのがメリットです。また役員個人の所得税や住民税を引き下げる効果も期待できます。
ただし、手取りが減ることに伴う生活水準の見直しや、役員報酬の変更手続き(株主総会や取締役会での決議など)が必要となる点には注意が必要です。
また、役員のモチベーション低下が会社全体の士気に影響を与える可能性もあるため、全体的な人事制度の見直しや目標設定を含めた総合的な検討が求められます。
タイトル
事業承継に際し、借入金の存在は後継者にとって大きなハードルとなります。とりわけ中小企業では、金融機関との連携や返済条件の見直しがスムーズに進まないケースも少なくありません。
ここでは、事業承継時の借入金対策に有効とされる公的な保証制度の概要やメリットを解説します。
事業承継特別保証制度
「事業承継特別保証制度」は、事業承継時の資金調達を支援するための特別保証枠です。
事業承継に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の施行とともに設定されました。
後継者が先代の企業を引き継ぐ際に、必要な運転資金や設備投資資金などに対して保証を受けることで、銀行などの金融機関から融資を受けやすくする仕組みです。
通常の保証枠とは別途設定されることがあるため、既存の保証限度額を上回る場合でも利用できる可能性があります。
事業承継では、新経営者の実績不足や連帯保証の問題がネックとなり、思うように資金調達できないケースも起こりがちです。
しかし、事業承継特別保証制度を活用すれば、保証協会の支援を受けながら金融機関との交渉を進めやすくなります。
利用にあたっては、経営計画書や事業承継計画などを提出する必要があるため、早めに準備を進めることが大切です。
まとめ
役員借入金は相続税や債務超過、金融機関の評価低下など、大きなリスクをもたらします。
しかし、税務やM&Aの専門家と協力すれば、負担を最小限に抑えながら円滑な承継が可能です。制度利用や増資など総合的に検討するのがおすすめです。
計画的な対策を講じ、より強固な経営基盤を築きましょう。