事業承継をすると個人保証はどうなる?解消できる?関連ガイドラインと対処法

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事業承継をすると個人保証はどうなる?解消できる?関連ガイドラインと対処法

事業承継をすると個人保証はどうなる?解消できる?関連ガイドラインと対処法

2024/12/06

事業承継を進める中で時折ネックとなるのが個人保証です。個人保証を理由に金融機関が事業承継を拒否するケースがあるなど、事業承継前に対策を立てる必要があります。

この記事では、事業承継における個人保証の取り扱いを中心に、個人保証の解消、対処法などを解説します。

この記事を書いた人

松村昌典

株式会社エムアイエス 代表

山口県山口市(旧:阿知須町)生まれ 立命館大学経済学部卒業

大学卒業後、山口県中小企業団体中央会に入職。ものづくり補助金事務局を9年間担当。

2022年5月に独立し、株式会社Management Intelligence Service(現:株式会社エムアイエス)を立ち上げる。経営コンサルタントとして支援した企業はのべ1,000社以上。ITやマーケティングに関する知見の深さと、柔軟な発想力による補助金獲得支援に定評がある。自らのM&A経験を活かした企業へのM&A支援も得意とする。
「山口県から日本を元気にする経営コンサルタント」を合言葉に、山口県内の企業はもちろんのこと、県外企業へのコンサルティングも積極的におこなっている。

〈保有資格・認定〉

中小企業診断士
応用情報技術者

〈所属・会員情報〉

山口県中小企業診断士協会 正会員
山口県中小企業組合士会 正会員
山口県中小企業家同友会 正会員

目次

    事業承継をすると個人保証はどうなる?

    事業承継を進めたい経営者の中には、自ら個人保証を利用している方も多いのではないでしょうか。

    事業承継を行えば、基本的に後継者に引き継がれる一方、個人保証を理由に拒否される場合もあります。

    原則後継者に引き継がれる

    事業承継にはいくつかのパターンがあり、例えば、相続の形で事業承継を行う場合には、個人保証も後継者に引き継がれます。

    一方、相続ではない形で事業承継が行われる場合、個人保証が引き継がれないケースも少なくありません。

    ただ、金融機関の立場からすると、個人保証を引き継いでもらった方がリスクは少なく、逆に解除されてしまうとリスクが高まることが懸念点となります。

    中小企業によっては経営者の資産を活用して企業に貸付を行うケースがあり、事業承継後に問題となるケースもあるでしょう。

    もちろん個人保証は絶対に引き継がれるというわけではありませんが、事前の対策や確認は必須です。

    銀行に拒否されるケースもある

    事業承継を進める中で、個人保証の引き継ぎを銀行拒否するケースがあります。

    そもそも個人保証は企業の信用力などが乏しい場合に、経営者の資産を担保に融資を受けるという仕組みです。

    先代経営者から後継者に切り替わり、個人保証も引き継ぐ際に、新たな経営者の財産そのものが心もとないケースもあるでしょう。

    その場合に、銀行側から「引き継ぎを認めることはできない」という反応が出てくることが考えられます。

    先代経営者が倒産時のリスクを抱え込んだままの状態で事業承継をしていく状態になるため、事業承継後の思い切った経営がしにくくなるケースも考えられるでしょう。

    事業承継方法ごとの個人保証のポイント

    事業承継には主に3つの方法があり、個人保証の観点から見た際、それぞれにポイントがあります。

    親族内承継の場合

    親族内承継は、親族が事業を引き継いでいく形です。例えば、親子間で引き継ぎを行う場合、はっきりとした関係性がある分、金銭面での仲違いなどは起こりにくく、すんなりと個人保証を含めた引き継ぎが行われやすいでしょう。

    貸付を行う金融機関からしても、仮に先代経営者が亡くなってもその遺産は後継者である子どもが引き継ぐため、回収不能に陥る可能性は低いと考えるようになります。

    一方で、個人保証は先代経営者の実績によって行われているため、後継者の実績がまだ乏しい中だと引き継ぎがすんなりといかない恐れもあるでしょう。

    そのため、親族内承継を検討する際には事前に金融機関と交渉を重ねていき、スムーズな引き継ぎを目指すことが必要です。

    従業員承継の場合

    従業員承継は、役員・従業員が引き継ぐケースとなります。

    一定の準備期間を用意しているとはいえ、個人保証を丸々引き継ぐのは大変です。

    役員・従業員側に資金の確保が必要ですが、個人保証の額によってはそもそも事業承継を断る選択肢も出てきてしまいます。

    一方で融資で確保しようにも、信用という観点から厳しい面があるのも事実です。

    従業員承継の場合も、前もって対策を立て、円滑な事業承継に向けて妨げとなる要素を一つひとつ取り除いていくことが求められます。

    M&Aの場合

    M&A・企業買収は、株式譲渡などを行い、第三者に事業承継を行っていくケースです。

    経営権などは第三者に移行されるため、個人保証なども一緒に移行してもらう形が理想的でしょう。

    注意したいのが経営権などは移行したのに、手元に個人保証だけ残ってしまうようなケースです。

    親族間や対従業員の事業承継はこれまでの関係性があるため、多少のことは双方が飲み込むこともできるでしょう。

    しかし、第三者はシビアにビジネスの部分で事が運ぶため、個人保証に関する交渉は徹底して行わなければなりません。

    事業承継をするときの個人保証リスクとは?

    事業承継をする場合にはいくつかの個人保証に関するリスクが存在します。

    事業用のお金とはいえ、多額の借金を抱える債務者のような状況だからこそ、対応を間違えないようにしたいところです。

    個人の生活に影響が出る可能性がある

    個人保証は企業・法人が倒産してしまい、借入金を返せなくなった場合、保証人が持つ財産を売却するなどして債務を返済する制度です。

    企業に成り代わって返済を行うため、倒産した場合の負担は大きくなります。

    個人保証によって、今までの生活の見直しを余儀なくされることもあるでしょう。余生を過ごすためにリタイアしたはずなのに、それどころではなくなるケースもあります。

    個人保証は中小企業の経営者にとって頼りになるものですが、場合によっては致命的な状況を招くこともあるでしょう。

    大胆な事業拡大が難しくなる

    個人保証によって、大胆な事業拡大が難しくなるのも大きな要素です。

    万が一失敗した場合、財産がなくなる可能性が非常に高く、それでもなお借金が残ることも考えられます。

    多額の借金を背負うかもしれないという不安により、経営において一歩前へ踏み出せないことも出てくるでしょう。

    経営はタイミングが合えば業績の成長につながりますが、やるべき投資を怠れば、せっかくの機会を失うことになりかねません。

    後継者候補に事業承継を拒否されやすい

    後継者を見つけても、個人保証に対する不安が後継者候補にあれば、事業承継を拒否されても何らおかしくありません。

    中小企業庁が過去に行った調査によると、事業承継を拒否した人の中で、個人保証を理由に拒否した割合はおよそ6割です。

    参照:事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策について|中小企業庁 金融課

    先代経営者の個人保証とは別に、後継者も独自に個人保証を提供する「二重徴求」は18.6%と減少傾向にあるものの、それでも一定数存在しています。

    新たな経営者が個人保証のない形で事業承継が行えるケースは4割程度とこちらも増えていますが、先代経営者に個人保証がある状態は30%と高く、個人保証がネックになっていることは間違いありません。

    経営者が事業承継を完了させる前に亡くなると、連帯保証人が所有する債務も法定相続人たちが引き継ぎ、それぞれに多額の借金を抱えることになります。

    こうした状況が見込まれる場合、後継者候補が事業承継の拒否に動くのは不思議ではありません。

    事業承継時の個人保証の解消の方法は?

    事業承継において個人保証を解消することが、安心して後継者に事業承継をしてもらう点で重要です。

    その方法は大きく分けて2つあり、ガイドラインや制度の活用を行っていくことです。

    経営者保証ガイドラインの活用

    まず行うべきは経営者保証ガイドラインの活用です。

    経営者保証ガイドラインとは、個人保証・経営者保証を契約もしくは履行する際にトラブルが起きないようにしていくルールを指し、2014年2月から公表、適用されています。

    企業・法人が倒産した時点で経営者に多額の借金が生じる事態を避けるために、経営者保証ガイドラインを活用して債務整理を行うことで経営者を守ることが可能です。

    参考:経営者保証|中小企業庁

    経営者保証ガイドラインの要件

    経営者保証ガイドラインには主に3つの要件があります。

    • 資産やお金の授受において、法人・経営者が明確に区分もしくは分離されている
    • 前もって財務基盤の強化が行われていて、法人・企業が持つ資産・収益力で弁済できる
    • 金融機関に対し、財務情報が常に的確に開示されている
       

    この3要件の一部を満たす状態であっても、個人保証がない形での融資が可能で、現時点における個人保証の見直しの可能性があるでしょう。

    金融機関にとっても、要件の満たし方次第で個人保証以外での保証機能の検討を図っていくことになります。

    経営者保証ガイドラインの活用法

    経営者保証ガイドラインの活用法として、まず個人保証契約の解除や見直しが挙げられます。

    3要件をできる限り満たす努力を行うことで、金融機関が個人保証の解除もしくは見直しを認めやすくなるでしょう。

    ほかにも、返済の負担軽減と同時に、生活費を確保したり、自宅の売却を回避したりすることを認めてもらう際にも活用可能です。

    また、経営者保証ガイドラインの規定では、経営の悪化により返済が難しくなった場合、返済不能分は免除すべきとされています。

    事業承継特別保証制度の活用

    次に経営者が活用すべき制度として、事業承継特別保証制度があります。

    事業承継特別保証制度とは、事業承継においてできる限り個人保証を解除できるよう、サポートを行う制度です。

    後継者に先代の代表取締役社長が保有する債務を引き継がせずに事業承継を行ってもらう内容となっています。

    参考:事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策|中小企業庁

    事業承継特別保証制度の対象

    事業承継特別制度の対象は、個人保証を解除した形で事業承継を行いたい法人です。

    事業承継特別保証制度は2020年に始まったもので、制度を使えば事業承継を行う際に個人保証の必要がありません。

    新しい代表取締役に対して個人保証の引き継ぎが行われないよう、融資という形で個人保証の解除が可能です。

    融資なので利子がかかりますが、経営者保証コーディネーターと呼ばれる専門家の確認を受けることを条件に保証利率が引き下げられます。

    事業承継特別保証制度の要件

    事業承継特別保証制度の要件は以下のとおりです。

    1. 3年以内に事業承継を予定している、事業承継計画を策定している法人
    2. 事業承継を行ってから3年が経過していない法人※2020年1月1日から2025年3月31日までに事業承継を実施した場合のみ
    3. ①資産超過②EBITDA有利子負債倍率が10倍以内③法人・個人の分離が行われている④返済が緩和されている借入金がない、の4項目すべてを満たしている

    1と2のいずれかに該当した法人で、3に記載されている4項目すべてを満たした場合に、事業承継特別保証制度の対象となります。

    事業承継特別保証制度の活用法

    事業承継特別保証制度は融資の制度ですが、個人保証契約を行う金融機関との交渉に向けてのサポートにも活用可能な制度です。

    個人保証を解除するには借入がある金融機関の判断が必要であり、専門家の支援を受ける形で交渉を進めていきます。

    事前に税理士に依頼して事業承継計画書の作成を手伝ってもらい、制度の活用が行えるように取り組みを行う流れです。

    事業承継での個人保証に関するよくある質問

    最後に事業承継での個人保証に関して、よくある質問をまとめました。

    個人保証を外すデメリットはある?

    個人保証を外すデメリットとして、企業価値を始め、金融機関からの信頼が落ちてしまうことが挙げられます。

    そもそも個人保証は、企業に複数の問題・課題・不備がある場合に個人保証を取り、経営者に一定の責任を負わせる形で融資を認めるものです。

    その個人保証を解除することは、企業・法人の信用度を下げやすくさせ、関係各所に影響を与える可能性があります。

    また、今後融資を検討する場合でも、個人保証を解除した事例があると融資の審査をパスしにくくなる恐れも出てくるでしょう。

    個人保証の解除は、創業者から後継者へのスムーズな譲渡という点で必要ですが、デメリットも少なからず存在します。

    個人保証と連帯保証の違いはある?

    個人保証は性質的には連帯保証のケースが多く、違いはほとんどありません。

    そもそも連帯保証は債務者と連帯する形で返済義務を負うことを指し、連帯して返済義務を負う人物が連帯保証人です。

    個人保証では、企業が主たる債務者で、経営者や家族などが連帯保証人のような関係性となります。

    そのため、金融機関を始めとする債権者から返済を要求されれば、経営者や家族などが弁済しなくてはなりません。

    後継者に個人保証を引き継がせることは、連帯保証人の名義を先代から後継者へ変えることと同義です。

    まとめ

    事業承継の際に個人保証を引き継がせることは、自社の今後の成長を託すという点では不要です。

    個人保証を解除させるには、さまざまな制度を活用することが求められ、活用に向けて資料を用意したり、経営状況を改善したりする必要があります。

    個人保証を理由に事業承継を拒否するケースが多い状況を踏まえ、柔軟に対応する制度も進んでいるため、今後の事業承継の動きに要注目です。

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