社長死亡で後継者なしの会社|手続きは?オーナー社長の事業承継の準備と進め方

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社長死亡で後継者なしの会社|手続きは?オーナー社長の事業承継の準備と進め方

社長死亡で後継者なしの会社|手続きは?オーナー社長の事業承継の準備と進め方

2024/07/22

事故や病気などで突然経営者が死亡してしまった場合、後継者不在の会社ではどのような手続きが必要なのでしょうか。

株式の相続や会社の負債など、さまざまな問題に見舞われることになります。ただし、生前から事業承継の準備を進めることで、万が一の際にも、スムーズに後継者へ引き継ぐことが可能です。

本記事では、後継者なしで社長が死亡してしまった会社に起こりえる影響や、事業承継の進め方などについて解説します。

この記事を書いた人

松村昌典

株式会社エムアイエス 代表

山口県山口市(旧:阿知須町)生まれ 立命館大学経済学部卒業

大学卒業後、山口県中小企業団体中央会に入職。ものづくり補助金事務局を9年間担当。

2022年5月に独立し、株式会社Management Intelligence Service(現:株式会社エムアイエス)を立ち上げる。経営コンサルタントとして支援した企業はのべ1,000社以上。ITやマーケティングに関する知見の深さと、柔軟な発想力による補助金獲得支援に定評がある。自らのM&A経験を活かした企業へのM&A支援も得意とする。
「山口県から日本を元気にする経営コンサルタント」を合言葉に、山口県内の企業はもちろんのこと、県外企業へのコンサルティングも積極的におこなっている。

〈保有資格・認定〉

中小企業診断士
応用情報技術者

〈所属・会員情報〉

山口県中小企業診断士協会 正会員
山口県中小企業組合士会 正会員
山口県中小企業家同友会 正会員

目次

    社長死亡で後継者なしの会社はどうなる?

    社長の突然死などで後継者が選任されていない場合、会社の業績悪化や後継者選びでのトラブル、廃業や売却に至るケースなどが想定されるでしょう。

    取引先の信用度が落ちる

    一般的に、企業規模が小さいほど社長の影響力は大きくなります。中小企業では、取引先企業と創業社長との信頼関係によって存続している案件がある場合、社長の死亡によって取引が終了してしまうケースも少なくありません。

    いきなり取引終了までいかずとも、たとえば社長の知識・ノウハウによって経営が成り立っている場合、突然死によって業務がストップすることもあるでしょう。

    納期や支払いが遅れるなどの影響が出ると、会社としての信用度が落ちてしまう可能性も否めません。

     

    業績が悪化する

    前提として、社長が死亡した場合でも、残された家族または従業員が会社を相続(=株式を相続)することも可能です。ただし、社長が変わることで業績が悪化する可能性についても考える必要があります。

    社長が後継者を指名せずに死亡した場合、長期にわたって会社のトップが不在のまま業務を続けることになるでしょう。その結果、業務が滞ったり、取引先を失ったりすることで、会社の業績が悪化してしまうこともあり得ます。

     

    後継者選びで揉める

    後継者を指名しないまま社長が死亡した際、会社は親族や従業員に事業承継するか、M&A(合併・買収・事業統合など)する方法があります。親族や従業員が相続する場合は、後継者選びで揉めるケースも少なくありません。

    たとえば、亡くなった社長の子どもが長男・次男の2人いる場合「誰が何株相続するか」を決める遺産分割協議がスムーズに進まないことがあります。

    また、協議によって長男が株式を相続することになった場合は、次男側が「自分は数千万円の土地しか相続できなかったのに、長男は数億も価値のある会社をもらった」と不満を持つこともあるでしょう。

    相続人が廃業や事業売却を選択することもある

    後継者になる人がいない場合や、事業の継続が難しい場合は、会社を廃業または事業売却するケースもあります。まず、廃業する場合は相続人全員が相続放棄したうえで、会社の解散・清算の手続きが必要です。

    会社の解散・清算は「清算人」が行いますが、会社の定款(ていかん)で指名されていない場合は、株主総会の決議によって選任されます。廃業にともなう各種手続きについては専門知識が求められることもあるため、税理士や司法書士へ依頼するケースも珍しくありません。

    なお、会社が債務超過になっている場合は、解散とは別に破産手続きや相続放棄の選択肢があります。

    中小企業の多くは、譲渡に制限を設けた「譲渡制限株式」を採用しています。信用できない第三者に株式が渡ることを防ぐためにあるもので、会社に対して譲渡承認請求を行う→承認機関(取締役会か株主総会)の承認をもらう、という流れになるのが一般的です。

    ただし、現実問題として中小企業の場合は、第三者の買い手が見つからないことも多いでしょう。

    オーナー社長が死亡したら相続はどうなる?

    社長自身が自社のオーナーを務めるオーナー社長が死亡した場合、親族としては「会社を相続することになるのか」が気になるポイントでしょう。

    法律上の観点から、オーナー社長の死亡後、相続するものについて解説します。

    相続するのは「会社の株式」

    社長の死亡後、相続人は会社そのものや会社の財産(お金や備品、土地など)を相続するわけではありません。社長が保有していた「会社の株式」を相続します。

    会社は「法人」と呼ばれ、「相続」という概念は適用されません。会社の社長(代表取締役)は株主が選任するため、相続人が株式を相続して株主になると、新たな社長を選任できます。もちろん、本人が社長に就任することも可能です。

    社長の会社への貸付金は相続財産

    会社の業績が悪く、従業員に給料が払えない、取引先への支払いができないといった場合は、役員が会社にお金を貸すことがあります。役員が貸し付けたお金は会社側から見ると「役員借入金」です。

    たとえば、社長が会社に1,000万円お金を貸し、返済してもらうことなく亡くなった場合は、相続財産のなかに1,000万円の貸付金が含まれることになりますが、貸付金はプラスの財産に分類され、相続人には相続税の支払い義務が発生します。

    相続人が代表権を得るなら遺産分割協議がポイント

    遺産分割協議とは、故人の遺産について相続人全員で分割方法や割合を話し合って決定することです。社長の株式は不動産や金銭と同じ「遺産」にあたるため、遺産分割協議によって「誰が何株相続するのか」を決定します。

    誰が株式を相続するのか決まっていない場合は株主不在となり、株主総会を開いての社長選定ができません。なお、株式総会での決議には株式の過半数が必要です。相続人が複数人いる場合は、遺産分割協議で慎重な判断を行いましょう。

     

    社長死亡で残された社員はどうなる?

    社長が死亡した際、残された従業員はどのような問題や課題に見舞われるのでしょうか。起こり得ることとして、以下2つのポイントを解説します。

    経理を社長が兼ねていると支払いが困難になる

    中小企業では、社長が経理関連の業務を兼任していることも珍しくありません。経理では、組織全体のお金や取引に関する記録・管理を行っており、社長の急逝によって各所への支払いが滞る可能性があります。

    また、取引先への支払い遅れは関係悪化の原因になるため、一時的に資金を集めるなどの対応が必要になるケースもあります。

    後継者は「個人保証」も引き継ぐ必要がある

    中小企業では、社長が会社の銀行取引などで連帯保証人になる「個人保証」がついている場合があります。後継者はこの「個人保証」も引き継ぐ必要があり、内容を把握しないまま社長の跡を継いだ社員が多額の返済義務を背負い、最悪自己破産に追い込まれてしまうケースもあるでしょう。これは、相続人にも起こり得ることです。

    社長の後継者や相続人になる場合は、その他の借金と併せて「個人保証」の内容についても確認したうえで検討しましょう。

    社長が死亡したときの会社で必要な手続き

    社長が死亡した際は、社内および関係各所への報告のほか、経営の新体制の確立が必要です。

    社長不在が長引けば、業績悪化や役員への負担増加を招きかねないため、迅速な対応が求められます。

     

    社内への報告

    まずは、会社の従業員に社長の死去を報告しましょう。とくに中小企業における社長の存在は大きく、従業員が今後の会社の運営や給料面、将来について不安を抱く可能性があります。

    今後の会社の運営方針を説明するとともに、社長の業務や決裁、財務・経理などの代行者を選任しましょう。

    関係各所への連絡

    顧客・仕入先・外注先・金融機関など、すべての関係先へ速やかに社長の死去および今後の会社の方針を連絡しましょう。社葬を行うか否かは、故人または遺族の意向によって決定するのが一般的です。

    葬儀を身内だけで行う場合は、書類やFAXなどで亡くなった旨を通知するケースもあります。

    一方、社葬を実施する場合は、通知する取引先をリストアップしておきましょう。文面の作成や参列者の席順、焼香の順番などは、葬儀業者がサポートしてくれます。

    後任代表者の選定

    社長が亡くなると「死亡による退任」という扱いになり、代表権を失います。代表権は、社外の契約や取引を遂行する権限なので、社長の死亡時は次の代表者を見つけなければなりません。

    また、会社と同じく代表権、つまり社長の地位も相続ではなく、各社の定款に則っての選定が必要です。決める方法は前述の「株主総会での決議」のほか、「取締役会での決議」「取締役同士の話し合い」といった方法があります。

    社長が考えるべき「事業承継」の準備

    社長自身にもしものことがあった際、会社が機能不全に陥らないよう、生前から以下に述べる事業承継の準備を進めておきましょう。

    最低限の権限移譲を行う

    経理を兼任している社長が急死した際は、各所への支払いが滞ってしまうことがあります。

    後継者が選定される間だけでも、残された従業員だけで簡単な業務が遂行できるよう、支払い口座やパスワードなどの共有は行ったほうがよいでしょう。

    株式承継を検討する

    株式承継は、現社長が後継者に株式を譲り渡すことです。自社株の過半数以上を所有している人でなければ、株主総会での決議が行えない、つまり会社の実権を握れないことになります。

    株式を渡さず社長職だけ譲るとなると「雇われ社長」と変わらないため、これまで紹介したようなトラブルの回避にはなりません。

    また、親族内承継の場合は、株式承継を1人に集中させましょう。家族で分散させてしまうと、揉め事が長引いたり、その結果会社の機能不全を招いたりする可能性があるためです。

    連帯保証は親族以外ではリスクが高い

    企業によっては社長が会社の銀行取引などで連帯保証人になる「個人保証」に入っている場合があります。

    親族が後継者になる場合は、個人保証の開示や財務状況が共有しやすいほか、生命保険の保険金を従業員の給料や事務所家賃などの支払いへ転用することも可能です。

    一方で、親族以外が連帯保証人となった場合は、まず第三者に個人保証の内容や財務状況が知られてしまうリスクがあります。

    また、生命保険の受取人として登録できないといった理由から、資金面の負担が重くなりやすいことなどもデメリットでしょう。いずれにしても、早い段階から事業承継の準備を進め、適切な人材を選定することが重要です。

    貸し付けている資産は会社で買い取る

    社長が会社へお金を貸しており、返済されずに死亡した場合は「貸付金」として、未回収分が相続税の課税対象となります。

    きちんと回収できる貸付金であれば問題ないものの、回収できない場合は相続人の自己資金から納税しなければなりません。

    後継者の負担を減らす解決策として「デット・エクイティ・スワップ(DES)」という方法があります。これは社長の貸付金、つまり会社にとっては債務となる一部を株式化する方法で、債務を「株式」という資本に変えることで負債が減り、元金や利息の返済負担を減らせます。

    参考:デット・エクイティ・スワップ|野村証券

    社長が死亡した際のよくある質問

    よくある質問として以下にまとめましたので、参考にしてください。

    法人の代表者が死亡すると銀行取引はどうなる?

    個人名義の銀行口座の場合、名義人の死亡によって口座が凍結されます。しかし、法人の代表者が死亡したとしても、法人自体がなくなるわけではないため、法人口座が凍結されることは通常ありません。

    ただし、会社の倒産などで債務整理が開始されたり、社会保険料や税金の滞納によって口座が差し押さえられたりする事例があります。法人の代表者が死亡した際は、速やかに銀行へ届け出を行いましょう。

    代表取締役が死亡して、登記に空白期間があるとどうなる?

    会社の役員が死亡した際は、死亡日を起算日として、2週間以内に役員死亡登記を申請しなければなりません。期限を過ぎて変更登記申請をした場合は「登記懈怠(とうきけたい)」として、過料が科せられる可能性があります。

    また、提携先や取引先企業が与信調査として登記簿謄本を確認する場合があり、その際に実在しない役員名が記載されていると、会社の信頼を損なうこともあり得るでしょう。

    登記簿謄本が常に最新の情報になるよう、申請は時間をおかずに行うことが大切です。

    社長が死亡した場合、役員はどうなりますか?

    取締役会を設置している会社では、取締役の中から後継者の選任が必要です。会社法で取締役は3人以上でなければならないと定められているため、取締役が2人以下になる場合は、株主総会で3人目の取締役を選任したのち、そのなかから後継者を選ぶことになります。

    参考:e-Gov法令検索

    事前に事業承継の準備を進めよう

    後継者のいないまま、突然社長が亡くなった場合は、残された親族や従業員に大きな負担がかかる可能性があります。

    とくに、親族は大変な悲しみと不安のなか、相続や各種手続きに追われることになりかねません。生前から事業承継の準備を進め、万が一のときに会社やご家族を守れるよう、事前に対策を取りましょう。

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