社長から会社を譲り受ける従業員承継とは?円滑に引き継ぐ課題と注意点

お問い合わせはこちら

社長から会社を譲り受ける従業員承継とは?円滑に引き継ぐ課題と注意点

社長から会社を譲り受ける従業員承継とは?円滑に引き継ぐ課題と注意点

2024/10/31

従業員承継は事業承継の1つの方法です。親族間やM&Aではなく、役員・従業員に事業承継を行う方法で、さまざまなメリット・デメリットが存在します。

この記事では、社長から会社を譲り受ける従業員承継の方法や注意点を解説します。

この記事を書いた人

松村昌典

株式会社エムアイエス 代表

山口県山口市(旧:阿知須町)生まれ 立命館大学経済学部卒業

大学卒業後、山口県中小企業団体中央会に入職。ものづくり補助金事務局を9年間担当。

2022年5月に独立し、株式会社Management Intelligence Service(現:株式会社エムアイエス)を立ち上げる。経営コンサルタントとして支援した企業はのべ1,000社以上。ITやマーケティングに関する知見の深さと、柔軟な発想力による補助金獲得支援に定評がある。自らのM&A経験を活かした企業へのM&A支援も得意とする。
「山口県から日本を元気にする経営コンサルタント」を合言葉に、山口県内の企業はもちろんのこと、県外企業へのコンサルティングも積極的におこなっている。

〈保有資格・認定〉

中小企業診断士
応用情報技術者

〈所属・会員情報〉

山口県中小企業診断士協会 正会員
山口県中小企業組合士会 正会員
山口県中小企業家同友会 正会員

目次

    社長から会社を譲り受ける従業員承継の特徴

    社長から会社を譲り受ける従業員承継には、いくつかの特徴が見られます。

    会社のことを熟知した役員もしくは従業員が後継者となるため、スムーズに事が運びやすい点が大まかな特徴として挙げられるでしょう。

    ここでは、従業員承継に関する特徴について解説します。

    経営者の資質を備えた人材を社内から選べる

    従業員承継のよいところは、今いる従業員の中で経営者としての資質を有する人を選んで、経営を任せられる点にあります。

    長く働く社員であれば、企業の体質や他の従業員との関係性を熟知しており、スムーズな事業承継、引き継ぎが可能です。

    親族間での継承だと、経営方針や社風などの理解が浅い状態になりやすく、さまざまなハレーションにつながりかねません。

    企業買収においても、相手が買収後の方針を定めていくため、必ずしも意に沿う方針になるとは限らないでしょう。

    色々熟知した従業員で、しかも経営者の資質を備えた人材であれば、誰しもが納得し、スムーズな事業承継となります。

    業務や社風を円滑に引き継げる

    すべてを熟知した人物が従業員承継を行うことで、今までと同じような働き方になりやすく、混乱が生じにくくなります。

    業務内容や社風に変化があると、従業員からすれば違和感が強く、「前の社長がよかった」と評価され、信頼を失いかねません。

    特に企業買収においては、新たな経営者が前の社長と異なるやり方をしたいと経営のやり方を変えようとします。

    結果として、従業員からの信頼を失い、経営が立ち行かなくなることもあるでしょう。

    親族間での事業承継だと、前もって後継者に会社に入ってもらって準備を進めてもらうことができますが、信頼を勝ち取るのに時間がかかります。

    円滑に引き継いでいくには、長く働く役員・従業員に託すのが重要です。

    従業員や取引先から受け入れられやすい

    今まで一緒に働いてきた人が経営者になる形だと、従業員や取引先からすれば安心です。

    いきなり方針がガラッと変わることがなく、取引先との関係性も今まで通りになりやすいでしょう。

    特に取引先は、全く知らない第三者が経営者になると、さまざまな交渉において、今まで通りにならないのではないかと不安に感じます。

    一方で親族間承継だと、経営者としての頼りなさを感じてしまうことも少なくありません。

    今まで経営者を支えてきた役員が従業員承継で社長になった方がハレーションは少ないでしょう。

    従業員承継の注意点

    従業員承継をする際には、事前に確認しておきたい注意点があります。

    今までお世話になっていた経営者から、大切な会社を引き継ぐプレッシャーによる弊害や資金面での問題など、事前に対策しておきたいものは少なくありません。

    先代経営者のやり方や考え方を踏襲しすぎる可能性がある

    先代経営者から事業承継を行った後継者が、今までのやり方を守りすぎてしまう可能性があります。

    継続性を重んじることは悪いことではありませんが、現代は新たな技術が日夜出ており、その技術をいかに活用できるかが重要です。

    事業承継の悪影響を小さくして会社存続に専念するには先代経営者のやり方や考え方を踏襲することは大事ですが、柔軟性が失われる可能性も考えられます。

    今までのやり方・考え方は守りつつも、新たな方針を見出して実験的に盛り込んでいき、変化を図っていくことも大事です。

    後継者の資金不足が発生する可能性がある

    従業員承継で一番気をつけたいのは、多額の資金・資産が必要となり、ショートする可能性がある点です。

    新たな経営者が自分の考えるように経営を行うには、株主として過半数の株を保有することがポイントになります。

    過半数の株を保有するには、前もって資産の確保が必要であり、融資を受けて資金を工面して株式を取得する手もあるでしょう。

    また業績がよい会社の場合、おのずと株式の評価金額が高くなり、負担がかかりやすくなります。

    将来的に従業員承継を行う際には、長いスパンで株式の取得費用を工面する方法を検討することが必要です。

    従業員承継の方法

    従業員承継を目指す方法は、所有と経営を一括で行える方法や所有と経営の分離を行う方法など多岐にわたります。

    それぞれの方法にはメリット・デメリットがあるため、従業員承継をする前にあらかじめ確認することが重要です。

    経営権のみを譲渡する

    従業員承継において株式のやり取りはしないで、経営権のみ譲り受けるケースがあります。

    一番のメリットは、後継者が多額のお金を用意しなくて済む点です。経営権の譲渡のみであれば、株主総会・取締役会を開いて、代表取締役を選任して登記を行うだけで完了します。

    注意点としては、株式を有する先代経営者がイニシアティブを握る形となるため、先代経営者の一存で後継者を辞めさせられることが挙げられるでしょう。

    どれだけ後継者が経営の勉強を行い、今までと異なるやり方を模索しても、先代経営者の意に沿わない場合には、過半数の株を握る大株主として解任を求める可能性があります。

    また、先代経営者が亡くなれば、株式は複数の法定相続人に相続され、事態がより複雑化する恐れもあるでしょう。先代経営者といかに良好な関係性を築いていけるかがカギとなります。

    後継者1名に株式を売却する

    後継者に株式を売却する際、その資金を工面するのは株式を購入する後継者で、1人に売却するのであれば、その1人がすべてを賄わなければなりません。

    資金が足りなければ、分割払いで支払うケースがある一方、金融機関の融資で工面するケースもあるでしょう。

    金融機関への返済を始め、金銭的な負担は大変ですが、少なくとも経営権を握られて自身の意に反する経営を余儀なくされる事態を防げます。

    実際に株式を手に入れる方法は複数の選択肢があるため、個人で考えず、豊富な知識を有する専門家の判断を仰ぐのがおすすめです。

    従業員持株会などに株式を売却する

    後継者の資金力が乏しい場合、1人にすべての株式を売るのではなく、一部を従業員持ち株会などに売却することも可能です。

    株式には優先株と呼ばれるものがあり、配当に関して優先権があるものの議決権には制限がある株式に換えたうえで従業員持株会に売却します。

    議決権に制限がある株が持ち株会に売却されれば、経営権を握るのに必要な株式の割合をある程度圧縮することができるでしょう。

    後継者の負担軽減につながる方法である一方、こちらも専門家に判断を仰いで進めていくことがおすすめです。

    株式を贈与または遺贈する

    先代経営者は後継者に対して株式の贈与もしくは遺贈を行えます。先代経営者は現金を得られないものの、よりスムーズな事業譲渡につなげられるでしょう。

    この場合に注意したいのが、贈与もしくは遺贈の量です。相続には遺留分という権利が相続人たちに与えられており、一定の割合の遺産・財産を受け取れる権利があります。

    仮に遺留分を無視した贈与・遺贈が行われれば、後々裁判などのトラブルに発展し、スムーズな経営者交代が難しくなるでしょう。

    経営承継円滑化法を活用し、条件を満たすことで事業承継に関係する株式を遺留分から除くことも可能です。

    その場合は遺留分の権利を持つ相続人たちの合意が全員分必要となるため、根回しが欠かせません。

    従業員承継の具体的な流れ

    従業員承継を行っていく流れは、主に6つのプロセスによって構成されます。

    経営状況の把握

    どのような事業承継の形であれ、最初に行うべきことは、経営状況の把握です。

    経営状況を把握することで、現状の課題を理解し、改善につなげていく方法を模索できるでしょう。

    また、中小企業は経営者のポケットマネーで会社が作られやすく、法人と経営者それぞれの資産があやふやになる傾向にあります。

    従業員承継を行う際には、法人と経営者それぞれの資産を明確にして、何を承継していくかも大事になるでしょう。

    後継者の選任

    従業員の中から、誰が一番後継者にふさわしいかを決めていきます。経営者としての素質には色々あり、リーダーシップ・決断力、人望などが挙げられるでしょう。

    一方で、経験を重ねることで成長するケースもあります。時期尚早とされる人物でも、先代経営者のそばに置いて一定の経験を重ねさせたタイミングで後継者として選ぶことが可能です。

    事業承継計画書の作成

    次に必要な作業が事業承継計画書の作成です。事業承継計画書は事業承継をスムーズに行うため、将来的な業績予測や今後行うことなどをまとめたものを指します。

    明確な様式こそありませんが、事業承継計画書では10年をベースに計画が立てられるのが一般的です。

    どのような方針で事業を拡大していくのかを示すものとなるため、外部の人たちを納得させるようなものにしなければなりません。

    後継者の育成と周知

    おおよその従業員承継の方針が定まったら、後継者に関して周知徹底を図り、育成に入ります。いきなり後継者を交代すれば、今までの従業員はもちろん、契約する取引先も驚いてしまうでしょう。

    まずは、どのタイミングで交代するかを決めた上で、経営者になる準備を重ね、その間に周知徹底を図っていくことが必要です。

    承継資金の調達

    先代経営者から株式を購入する場合には、承継資金の調達が欠かせません。

    資金の調達方法は人それぞれで、知り合いから借金をするケースや自宅を担保にしてローン契約を締結するケースなどがあります。

    いずれも目的は経営権を手に入れることですが、対価を得る方法も同時に考えていくことが重要です。

    特に株式を手に入れて上場する形になれば確実に対価を得られるので、モチベーションにつながりやすいでしょう。

    自社株式の譲渡

    資金を確保できれば、株式の譲渡となります。株式の譲渡は、まず株式に関する譲渡承認請求書を取締役会に出して、株式譲渡の承認を得なければなりません。

    その後、株式譲渡契約書を作り、お金のやり取りを行うことで、株式の譲渡が成立します。

    譲渡後に名義の書き換えを行えば、正式に株式譲渡は完了です。

    従業員承継の課題や悩みは?

    従業員承継ではいくつかの課題や悩みが存在します。

    ここでは、従業員承継でよくある課題・悩みについてまとめました。

    適切な後継者が見つけられない

    従業員の中に優秀な人材を探そうとしても、経営者としては足りない人が多いケースも十分に考えられます。

    数年単位で育成する余裕があれば、自らの近くに置いて経営者としての仕事ぶりを学んでもらうことは可能です。

    しかし、数年レベルの時間がかかる可能性がありますし、必ずしも思惑通りに成長するとも限りません。

    ハレーションを覚悟で親族間承継やM&Aを目指し、一定期間は後継者をサポートしてソフトランディングを図る手がおすすめです。

    自社株の買取資金が不足している

    後継者が株式を取得しようと思っても、資金が足りないケースも珍しくありません。

    もちろんその状態でも従業員承継は可能ですが、先代経営者がオーナーのままで、新しい経営者が雇われ社長の状態です。

    お互いの意思疎通がうまくいっている段階では順調に事が運ぶものの、対立が始まれば、関係性は急速に悪化します。

    しかも、新しい経営者が敏腕経営者で、先代経営者が旧態依然とした人物だった場合、新しい経営者を追い出した瞬間、従業員たちが離反する可能性もあるでしょう。その場合は廃業まで一直線に突き進む可能性もあります。

    保証の引継ぎが難しい

    事業承継を行えば、その会社にかかわる個人保証・連帯保証に関しても引き継ぐ可能性が出てきます。

    一方で、個人保証や連帯保証は、先代経営者に対して行われたものであるため、新たな経営者が引き継ぐことができるという確実な保証はありません。

    場合によっては金融機関が引き継ぎを認めない可能性もあるでしょう。どうしても引き継ぎたい場合には、専門家に相談を行って判断を仰ぐのが無難です。

    特定の事業のみを承継したい

    複数の事業を展開している場合には、特定の事業だけを承継したいケースも出てくるでしょう。

    その際には会社を分割し、一部分のみ事業承継する手もありますが、こちらも専門家に相談を行うのが確実です。事業承継が成約する前に相談を重ねていきましょう。

    社長から会社を譲り受ける従業員承継のよくある質問

    最後に社長から会社を譲り受ける従業員承継に関して、よくある質問をまとめました。

    有限会社を引き継ぐときはどうなる?

    社長から会社を譲り受ける従業員承継において、対象となる会社が有限会社だった場合、出資持分があるか、株式発行しているかで変わります。

    出資持分は株式が未発行の状態を指し、出資持分が株式のような扱いとなる形です。

    基本的にどちらも名義の書き換えや社員総会もしくは株主総会の開催後に手続きを踏んでいくことで、それらを引き継ぐことができます。

    相続税・贈与税といった税金の計算を税理士に依頼してもらうなど、やるべきことは有限会社だからといって大きくは変わりません。

    従業員承継の手続きにかかる期間はどれくらい?

    事業承継に関しては基本的に半年以上かかるとされており、ハレーションを起こさずに従業員承継を行うのであれば1年程度の時間をかけることが必要です。

    一方で、経営者の育成を含める場合には育成期間として数年程度を見込むことになります。

    候補者探しから始めるのであれば、最低でも数年はかかるでしょう。手続きだけを考えれば、半年から1年を想定しておくとスムーズに事が運びやすくなります。

    資金調達で補助金・助成金は利用できる?

    資金調達において、補助金や助成金を利用することは可能で、日本政策金融公庫が展開する「事業承継・集約・活性化支援資金」がその1つです。

    事業承継計画を策定し、事業承継を契機に第二創業を目指す人などが対象となっています。

    まとめ

    社長から会社を譲り受ける従業員承継は、今後全国の中小企業で多く見られることでしょう。

    少子化が進むほか、独立して都市部で働く人が増える中で、地方に戻ってきてほしいと懇願しても難しい現実があるためです。

    やる気のある従業員に事業承継をしてもらい、二代目・三代目になってもらう時代が本格的に訪れようとしています。

    当店でご利用いただける電子決済のご案内

    下記よりお選びいただけます。