業務改善助成金とは?事例や制度設計をわかりやすく解説

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業務改善助成金とは?事例や制度設計をわかりやすく解説

業務改善助成金とは?事例や制度設計をわかりやすく解説

2024/07/24

経費削減や生産性向上のために、業務改善助成金の検討をしている方は多いと思います。しかし、要件や手続きがわかりにくく、困った経験はありませんか?

このコラムでは、当社が実際に業務改善助成金の申請サポートをする中で、疑問に思ったことやひっかかったところ、事務局に確認した内容を取りまとめています。

※本コラムの中で確認した内容は、当社がある山口労働局からの回答がメインであり、他県では回答が異なる可能性があることをご了承ください。

この記事を書いた人

松村昌典

株式会社エムアイエス 代表

山口県山口市(旧:阿知須町)生まれ 立命館大学経済学部卒業

大学卒業後、山口県中小企業団体中央会に入職。ものづくり補助金事務局を9年間担当。

2022年5月に独立し、株式会社Management Intelligence Service(現:株式会社エムアイエス)を立ち上げる。経営コンサルタントとして支援した企業はのべ1,000社以上。ITやマーケティングに関する知見の深さと、柔軟な発想力による補助金獲得支援に定評がある。自らのM&A経験を活かした企業へのM&A支援も得意とする。
「山口県から日本を元気にする経営コンサルタント」を合言葉に、山口県内の企業はもちろんのこと、県外企業へのコンサルティングも積極的におこなっている。

〈保有資格・認定〉

中小企業診断士
応用情報技術者

〈所属・会員情報〉

山口県中小企業診断士協会 正会員
山口県中小企業組合士会 正会員
山口県中小企業家同友会 正会員

目次

    業務改善助成金の対象要件

    業務改善助成金は、中小企業や小規模事業者を対象とした助成金制度であり、賃金の引き上げに必要な生産性向上を支援するものです。

    具体的には以下3つの要件を満たす必要があります。

    1. 中小企業・小規模事業者である
    2. 事業場内の最低賃金と地域別最低賃金(もしくは地域における業種別最低賃金)の差額が50円以内である
    3. 解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がない
      参考:厚生労働省|業務改善助成金

    中小企業・小規模事業者かつ、事業場内に地域最低賃金より+50円以内の給料の従業員が1人でもいれば、業務改善助成金の対象となる可能性があるのです。

    中小企業・小規模事業者である

    中小企業・小規模事業者とは、以下のAまたはBの要件を満たす事業者のことをいいます。

      業種 A.資本金または出資額 B.常時使用する労働者
    小売業 小売業、飲食店など 5,000万円以下 50人以下
    サービス業 物品賃貸業、宿泊業、医療、福祉、複合サービス事業など 5,000万円以下 100人以下
    卸売業 卸売業 1億円以下 100人以下
    その他の業種 農業、林業、漁業、建設業、製造業、運輸業、金融業など 3億円以下 300人以下

    事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内である

    事業場内でもっとも低い賃金と、都道府県で定められた最低賃金の差が50円の場合、業務改善助成金の対象となります。

    たとえば、令和6年7月現在、山口県の最低賃金は928円です。

    事業場内の従業員のうち1人でも1時間当たりの賃金が978円以下であれば対象になるということです。

    製造業や小売業の一部では、地域別最低賃金よりも上乗せされた、業種別の最低賃金が定められていることがあります。その場合は、業種別の最低賃金が適用されるので注意しましょう。

    参考:山口県|山口県の最低賃金

    解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がない

    業務改善助成金では、不交付事由が定められています。

    【業務改善助成金の不交付事由】

    従業員を解雇した場合※事業継続が不可能となった場合、または労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇した場合を除く

    従業員の時間あたりの賃金を引き下げた場合

    所定同労時間の短縮もしくは所定労働日の減少によって月あたりの賃金額を引き下げた場合

    同一の助成対象経費や賃金引上げを対象として、補助金・助成金の交付を受けている場合
    参考:厚生労働省|中小企業最低賃金引上げ支援対策補助金(業務改善助成金)申請マニュアル(2024.4)

    不交付事由が適用される期間は下記のとおりです。下記の期間に不交付事由に該当すると助成金を受けられないため注意しましょう。

    • 賃金を引き上げた日から6か月を経過した日
    • 賃金を引き上げてから支給申請を実施した日の前日

    助成上限額について

    業務改善助成金の助成上限額について解説します。

    業務改善助成金のコース別助成上限額

    業務改善助成金は、事業場内最低賃金の引き上げ額ごとにコースがあり、それぞれのコースで引き上げる労働者数によって助成上限額が違います。

    コースは引き上げ額によって「30円、45円、60円、90円」の4区分があります。

    詳細を下表にまとめました。

    【業務改善助成金の助成上限額】

    コース区分 事業場内最低賃金の引き上げ額 引き上げる労働者数 助成上限額
    30人以上の事業者 30人未満の事業者
    30円コース 30円以上 1人 30万円 60万円
    2~3人 50万円 90万円
    4~6人 70万円 100万円
    7人以上 100万円 120万円
    10人以上※ 120万円 130万円
    45円コース 45円以上 1人 45万円 80万円
    2~3人 70万円 110万円
    4~6人 100万円 140万円
    7人以上 150万円 160万円
    10人以上※ 180万円 180万円
    60円コース 60円以上 1人 60万円 110万円
    2~3人 90万円 160万円
    4~6人 150万円 190万円
    7人以上 230万円 230万円
    10人以上※ 300万円 300万円
    90円コース 90円以上 1人 90万円 170万円
    2~3人 150万円 240万円
    4~6人 270万円 290万円
    7人以上 450万円 450万円
    10人以上※ 600万円 600万円

    ※10人以上の上限額区分は「特例事業者」が対象

    引用:厚生労働省|業務改善助成金

    業務改善助成金の助成率

    業務改善助成金は、事業実施にかかった費用に助成率をかけ、上記の上限額まで助成金がもらえる仕組みです。

    助成率は、引き上げ前の事業場内最低賃金によって異なります。

    【業務改善助成金の助成率】

    900円未満 900円以上950円未満 950円以上
    10分の9 5分の4(10分の9) 4分の3(5分の4)

    ※生産性要件に該当した場合はカッコ内の助成率が適用されます

    賃金引き上げの注意点

    業務改善助成金は、賃金を引き上げることを条件に支給される助成金です。

    賃金を上げるのはどの従業員でもよいわけではありません。事業場内において地域最低賃金に近い金額で雇用されている従業員の賃金を引き上げることで、賃金格差の是正を狙うものとなります。

    助成上限額は、申請時点での事業場内最低賃金(事業場内でいちばん低い賃金)から引き上げる額と引き上げる労働者の人数で決まります。地域別最低賃金からの引き上げ額でない点に注意しましょう。

    また、すべての労働者の賃金を新しい事業場内最低賃金以上まで引き上げる必要があります。

    例.※山口県の最低賃金928円を前提

    事業場内最低賃金が950円→業務改善助成金を活用して事業場内最低賃金を980円にアップ→事業場内最低賃金が30円アップしているため、業務改善助成金の対象となる

    事業場内最低賃金が950円→業務改善助成金を活用して事業場内最低賃金を978円にアップ→山口県の最低賃金より50円アップしているが、事業場内最低賃金より28円しかアップしていないため、業務改善助成金の対象外となる

    助成金の対象となる取り組み

     業務改善助成金で補助の対象となる取り組みは大きく分けて下記3点になります。

    1. 機器・設備の導入
    2. 経営コンサルティング
    3. その他

    機器・設備の導入

    事業所内での生産性が向上すると考えられる設備の導入が想定されています。

    想定される設備例を以下に挙げます。

    • POSレジ
    • フォークリフト

    POSレジ

    商品のバーコードを読み取るだけでリアルタイムな売り上げ管理ができるPOSレジは、業務改善助成金の対象となるケースが多いです。

    POSレジは1日の売り上げを瞬時に計算できるため、レジ締めにかかる時間を大幅に短縮できます。今までレジ締めにかかっていた時間を他の業務にあてられるため、業務効率アップにつながります。

    また、売り上げの分析も簡単にできるため、データを運営戦略に活用すれば、生産性向上にもつながります。

    フォークリフト

    大量の荷物を一度に運べるフォークリフトも、業務改善助成金の対象になりやすい設備です。

    手作業でおこなっていた材料の移動を、フォークリフトを使用することで、作業時間と労力を大幅に減少させられます。

    参考:厚生労働省|「業務改善助成金」を活用して

    経営コンサルティング

    業務改善助成金は、中小企業診断士や社会保険労務士などの国家資格者によるコンサルティング費用も対象です。

    コンサルティングを受けることで、業務フローの見直しができます。自社では気づけなかった改善点を洗い出すことができ、大幅な業務改善につながる可能性があります。

    コンサルティングを受けてみたいけれど費用面で見送ってきた事業者の方は、業務改善助成金を活用してコンサルティングを受けてみてはいかがでしょうか。

    その他

    上記以外にも、生産性向上につながると判断される取り組みに対して、業務改善助成金を充てられます。

    下記に例を挙げます。

    • 顧客情報の管理効率を向上させるための、情報管理システム
    • 飲食店における配膳時間の短縮を目的とした店舗改装

    申請手続きの流れ

     業務改善助成金を申請するには下記の通り手続きをする必要があります。

    1. 事前準備

    2. 申請書類の作成

    3. 審査と交付決定

    4. 計画実施と報告

    事前準備

    助成金で導入したい機械やコンサルティングサービス、システムなどを明確にし、それらを導入することで賃金を上げられるほどの生産性向上が実現できるかを検証します。

    誰が見ても納得できるよう、検証には具体的数値を用いるようにしましょう。

    申請書類の作成

    必要な書類を準備し、提出します。

    申請に必要な書類は以下のとおりです。

    • 交付申請書
    • 事業実施計画書
    • 助成対象経費の見積書
    • 申請前3か月分の従業員の賃金台帳
    • 生産性要件を満たしていることを確認できる書類
    • 特例事業者に該当することを確認できる書類※必要時
    • 国庫補助金所要額調書
    • その他参考となる資料

    参考:厚生労働省|中小企業最低賃金引上げ支援対策費補助金(業務改善助成金)申請マニュアル p16

    審査と交付決定

    提出した書類に基づき、各都道府県の労働局が審査をおこないます。審査に通過すると、交付決定通知書が届きます。

    審査から交付決定までは1か月程度かかるため、気長に待ちましょう。

    計画実施と報告

    交付決定通知が届いたら、提出した事業実施計画書に基づき、設備投資などの事業と事業場内最低賃金の引き上げを実施します。

    事業実施が完了したら実績報告書を提出します。この報告書が承認されると、晴れて助成金交付となるのです。

    当社における助成金の活用事例

    実際に業務改善助成金を活用して成功した事例として、当社の支援実績を紹介します。

    1. 農業関係事業者

    2. 労働者派遣事業者

    3. 建設事業者

    事例1.農業関係事業者

    業務改善助成金を活用し、にんにくの栽培効率を高めるために下記の設備を導入しました。

    • ハイクリアランスのトラクター(圃場の畝を車輪がまたげるようになり、生産効率がアップする)
    • にんにく栽培管理用のアタッチメント
    • にんにく乾燥機
    • にんにく運搬用クローラー

    さらに、当社代表のコンサルティングを受け、定量的な業務フローの見直しと改善策の洗い出しを実施しました。

    設備と仕組みの両面から生産性向上に取り組んだ、好事例です。

    事例2.労働者派遣事業者

    求人情報の収集を各プラットフォームで人手でおこなっていた企業に対してクローラーシステムを開発し、ロボットに求人情報の集客をさせられるようになりました。

    情報収集をシステムで実施できるようになったため、従業員は求人情報と求職者をマッチングさせる業務に集中できるようになり、業務効率の改善と生産性向上につながりました。獲得補助金額は150万円です。

    事例3.建設事業者

    後方超小旋回できるショベルを導入しました。

    狭い路上での作業にも適し、後方確認カメラ、ワイドガラスにより安全を確保しながら、スピーディーな作業ができるようになったため、作業時間が30%ほど短縮されました。

    マシン情報表示機能搭載のため、作業開始時にメンテナンス確認に時間が取られず、作業までのロスタイムも減少。とくに狭所に関しては方向転換がスムーズにでき、アームの長さを活かして車体を動かさずに高い所、遠い所、深い所の作業ができるようになったため、作業効率が30%上がりました。

    助成金を効果的に活用するポイント

     業務改善助成金を活用するときのポイントは下記のとおりです。ぜひ参考にしてください。

    1. 賃金の引き上げ幅を大きくしすぎない

    2. 賃金の引き上げ時期は最低賃金改定の動向をみて決める

    賃金の引き上げ幅を大きくしすぎない

    業務改善助成金では事業場内従業員の時給を上げることが要件です。

    各都道府県別最低賃金+50円以下の従業員において、引き上げ金額と引き上げ人数によって助成金額が変わってきます。

    引き上げ金額が多く、引き上げ人数が多いほうが助成金額は大きくなります。

    そのため、助成金を多くとりたいからといって事業場内最低賃金を大きく上げてしまうとその上げた範囲の従業員数が多く、経営をひっ迫してしまうリスクがあるので注意しましょう。

    賃金の引き上げ時期は最低賃金改定の動向をみて決める

    業務改善助成金では事業計画で賃金の引き上げ予定時期と実際に賃金の引き上げ実績を報告することとなります。

    毎年10月1日に全国の都道府県で最低賃金の引き上げが政府主導で行われるため、10月1日に賃金の引き上げ基準が変動します。この部分はよく考えて取り組みましょう。

    また、毎年1回の申請が認められているため、賃金の引き上げ金額を翌年の申請を見越して計画するとよいでしょう。

    助成金申請でよくある質問や注意点

    業務改善助成金の申請サポートに取り組む上で、実際にあった質問や注意点をまとめました。実体験に基づいた内容となっていますので、ぜひ目をとおしてください。

     

    引上げた事業場内最低賃金を下回った賃金で新たに従業員を雇用することは可能ですか?

    新たに雇用した人の賃金を、新たな事業場内最低賃金以下にすることはできません。

    もし、新たに雇用した人が事業場内最低賃金以下とした場合は、助成金を返還しないといけない可能性があります。

    最低賃金の引き上げ時期はいつに設定するのですか?

    助成金申請後~事業完了までの間で行う必要があります。申請前に賃金を引き上げると適用外になるので注意が必要です。

    雇ったばかりの従業員で賃金台帳がない人がいる場合の賃金台帳はどうすればよいですか?

    まだ賃金を払っていない新規雇用の従業員についても賃上げ対象者にすることができます。その場合、その人の賃金台帳は賃金支払い後に提出することとなります。

    事業の完了日はいつと認識すればよいですか?

    事業の完了日は、①賃上げ実施日②対象経費(設備類)の導入日➂対象経費の支払いが完了のうち、もっとも遅い日が基準日となり、そのあとで実績報告を提出して補助金の申請をすることとなります。

    業務改善助成金で賃上げ対象者の詳しい条件を教えてください

    3ヶ月以上各都道府県最低賃金+50円以下で雇用されている事業所が対象となります。

    業務改善助成金は事業所最低賃金を上げる必要があるため、上げた後の最低賃金以下となる従業員は当然ながら引上げが必要となります。

    前年度中に助成金申請をして次年度中の事業実施になる場合は実績報告などの様式はどれを使えばよいですか?

    次年度の新しい様式で実績報告を作成します。

    実績報告時に提出する会計関係書類はどのようなものを提出する必要がありますか?

    委託、ソフトウエア類は、契約書、導入物の写真、納品書、請求書、振込書(振込済となっていること、振込済みとなっていなければ通帳の振込記録が分かるものが必要)※購入物品は上記の契約書を除くもの一式となります。

    1つの法人に対して複数の事業所があるのですが、事業所ごとに申請が可能ですか?

    事業所ごとに申請が可能です。その場合、事業所に地域の最低賃金+50円以内の従業員がいないと申請できません。また、1つの法人で複数事業所がある場合、事業所毎に年に1回申請が可能です。

    事業完了期限はいつになりますか?

    申請時に設定されている事務局が指定している事業完了期限と自社が決めた事業完了予定日の、どちらか短いほうを事業完了期限とします。

    自社が決めた事業完了予定日で完了しない場合どうすればよいですか?

    事業完了期限の延長申請をする必要があるので、各都道府県労働局に余裕をもって相談してください。

    中古品の購入も可能でしょうか?

    中古物でも対象となります。ただ、中古物と同程度(年式、形式、などが共通であるものに限る)の相見積が必要となります。相見積が必要な理由は、その中古物の相場を知ることで、不正に価格が付与されたものでないことを担保するためです。どうしても、購入する中古物品が特殊なもので、相見積が不可能なものは、理由書(書式は自由)を添付してください。

    賃金引上げ時期について10月以降に設定すると何か変なことが起きますか?

    政府の方針で、10月に最賃が引き上げられることが、決まっている場合、10月前に助成金申請をした場合はそれ以前に賃金を上げる必要があります。つまり、10/1に最賃が引き上げられるとすると、企業の締めなど関わらず、9/30までの労働に対する賃金をあげていないと、対象にならないです。

    業務改善助成金を活用して労働環境の改善と競争力強化を図ろう

    業務改善助成金は、生産性向上をとおした労働環境の改善を目的としています。経営者も労働者も満足のいく企業にするために、正しく助成金を活用しましょう。

    設備投資や業務フローの改善はもちろんのこと、優秀な従業員を長期で雇用できれば、長期的な競争力強化にもつながります。企業の持続可能性を高めるためにも、業務改善助成金は有効です。

    当社は、ものづくり補助金事務局を9年間担当した中小企業診断士が代表を務めています。業務改善助成金に興味のある方は、ぜひお気軽にご相談ください。お待ちしています。

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